ブームが廃れてからが作品/ジャンルの成熟期

「何々のブームはもう下火だ」→「何々は終わった」みたいな言葉を見るたびに思うこと。

 まあブームなんですからそりゃそのうち廃れましょう。が、それが作品にとって無条件によくないことである、とはあんまり思わないのです。

 ブームになってるということは、方々から注目されているということです。それは人が集まってるということですし、企業的にはお金になるということでもあります。関連グッズやら、アニメ化やら、二次創作やらなんやかや。

 そういう状況は、いろんな過剰を生み出します。賑やかなのはよいことですが、それは同時に善し悪し区別のない混沌を呼び込みます。常に何か余計なものがくっついてくるので、大元である「作品そのもの」に視線を落ち着けることがなかなかできない、ということにもなると思うのです。

 ブームが去ると共に、そういった過剰な要素は減っていくでしょう。移り気な人たちは波にさらわれてどっかいっちゃうでしょうし、商業的に派手な展開もなりを潜めていくでしょう。でも、そういう状況を見て、「ようやく周りの余計なものに邪魔されず、作品そのものを落ち着いて楽しめる環境になった」と見ることもできるのです。

 商業作品だと、売り上げが落ちすぎると作品の進展に影響を及ぼすこともあるかもしれません*1。でも、同人作品だとこの点かなり気楽です。「上の許可が取れないから、これ以上作品が出せない」なんてことには、なかなかならないでしょうから。

ひぐらしのなく頃に』は一大ブームを巻き起こしましたが、過剰なメディア展開は作者のスケジュールを大いに圧迫したと思います。コミカライズやアニメ化の監修作業、その他メディア露出など、様々な仕事が制作者の竜騎士07さんに舞い込んだのです。本来なら『ひぐらしのなく頃に』の制作に当てるはずだった有限の時間が、ブームによって生じた新たな仕事に割かれなかったとは言えないでしょう。

 新作『うみねこのなく頃に』は、前作『ひぐらしのなく頃に』ほど爆発的なブームにはなっていないように見受けられます。一定の人気を根強く保ち、コアなファン層には概ね前作以上に評価されていると思うのですが、もろに水面に浮上してどかんどかん大騒ぎしてるようには見えません。でも、これってわりと制作者が戦略的に「ブームになりすぎないように」層を絞った結果であるようにも見えるのです。第一作からして、メインの女性キャラの平均年齢が40越えてるような設計ですから……。

 東方も、今みたいなブームが長く続くとは思いません。でも何年後か、ブームが去ってpixivであんまり東方絵を見なくなるような時代になっても、神主さんって平気な顔して飄々と新作のゲームだか音楽を作ってそうな気がするんですよね……。

 そういう見方をした時にいちばん危惧すべきなのは、作品を生み出す作者自身の腕が衰えたり、そのジャンルを支えるコアな層の人が減っていった時*2でしょう。そういった要素の変動は、「ブーム」の盛衰とは必ずしも一致しないと思っています。

 ブームの元になった作品と、ブームによって周囲をとりまく何物か、どちらを本質とするかで状況の見え方は変わってくると思います。「ブームが廃れることで損するのは誰なのか」「ブームが盛り上がることで得するのは誰なのか」というのは、ちょっと暇な時にでも考えてみてもいい話題なんですかしらねー、と思いました。思いました。

*1:まあ特定の「作者」を有する作品であれば、作者本人に対する一定数のファンは固く残ると思うんですが。

*2:古参が幅を利かせて自家中毒−、みたいな流れも幻視できますが……。