第1話「魔法少女きゆら」 Bパート(シーン3)
シーン2の続き。ラスト。
翌早朝。
「うー」
自席に突っ伏したたまま、私は自分の頭にチョップをかました。一発では物足りないので、右、左、右、左と連続チョップを繰り返す。
「ちょ、ちょっと……どうしたのうさ子ちゃん」
「どうも気分が優れません」
「遠足が楽しみで寝付けんかったか。その年で元気やね」
うぱ子とぜり子は、どうどうと言いながら私を撫でたりつついたりする。やめいやめいとあしらいつつも、私はさっきから釈然としない。ここ数日、なにかとても大事なことを考えていたはずなのだがと。*1
「あ、諸星さんおはよう」
最初にうぱ子が彼女に気づく。次にぜり子が片手を上げる。
「よす、おはよす」
私はなぜか戸惑いを覚え……でもやっぱり顔を上げる。諸星さんが、そこにいる。
「おはよう」
挨拶を返す諸星さん。そうだ。こっちから話しかければ、諸星さんだって返事くらい返すんだよなあ……と、私はしゃっきりしない頭で考える。
「ん……お、おはよう諸星さん」
「おはよう」それだけ言って、諸星さんは自席に向かってしまう。私は妙な焦燥に襲われる。何か言うことがあるはずだ。それが何なのか思い出せないまま、私はとにかく立ち上がる。
「諸星さん……」
諸星さんは振り返る。
「今日は……よ、よろしく」
「よろしく」
そう応えると、諸星さんはさっさと席に落ち着いてしまう。私はその背中をじっと見つめている。なんだか足りない。何かを急かすような焦りの気持ちと、それに対する諦めの気持ちが、ごちゃこちゃになって渦巻いている。
「あ」
諸星さんは「あ」と言った。諸星さんは鞄をごそごそとまさぐり、私の見慣れた箱を取り出す。諸星さんが戻ってくる。それが私の机に置かれる。
「洗っといたから。ありがとう」
そして、彼女はまたすぐ自席に戻ってしまった。私は、返してもらったお弁当箱をぼうっと眺める。幅広の楕円柱形をしたそれは、チェック柄のクロスで丁寧に包まれている。
「脈ありじゃね?」
「……うん」ぜり子とうぱ子が、顔を見合わせてにんまりとする。私も、喜ぼうとする。けれどそうして顔を上げると、小さな諸星さんの背中が見えて……私は、軋むような痛みを覚える。
『反魔法少女きゆら』 第1話「魔法少女きゆら」 END