『秘曲 笑傲江湖(六)妖人 東方不敗』

秘曲 笑傲江湖〈6〉妖人 東方不敗 (徳間文庫)

 遂に東方不敗が登場。この作品世界で最強クラスの使い手が二人半も束になって、それでもとても敵いはしないという異常な強さ。彼は顔見せが終わるとさっさと作品を退場してしまいましたけれど、この人を越える使い手はもう作中現れないのだろうなあと思わされました。まだあと二冊近くもあるのに。

 中盤からは、五岳派総帥の座を巡っての一大闘争が二転三転。第一巻で頂上的な強さを見せつけた莫大先生なんかについては、「この人は後半になってから満を持して物語に絡んでくるのだろう」と思っていたんですが、気がつくと戦いのレベルは彼も遠く及ばないものになっていたという……。インフレが凄いですが、次の巻で終わりというのがまたちょうどいい長さです。

 次で最終巻というところまでお話が詰まってきても、まだ誰がラスボスになるか断じられないのが面白いところ。順当に行けば「葵花法典」を身につけたあの二人のうちのどちらかなんだろうと思うんですが、別れ際の任我行が見せた"権勢に酔う"ような描写も気になります。これまでの成り行き上、彼はどちらかというと豪傑好漢としての姿ばかり見せてきましたけど、ここから先は遂にその"悪"の面が顕わになって立ちはだかることもあるのかな、とも思ったり。

 林平之さんと岳霊珊さんが気の毒すぎて……。主人公の令孤冲さんも散々ひどい目に遭ってきましたけど、こういう風に取り返しのつかないものではなかったなあと。都合よく難を回避する展開もいっぱいありましたけど、こういうところでやっぱりこの作家は容赦がないんだなあと思います。