遂にの読了。後半三冊は続けて一気に読んじゃいました。その部分だけでも千数百ページあったはずなんですけれど、ぜんぜん長いお話を読んだという印象がないのが凄いです。北方水滸伝読んだ時のような感覚。
主人公がかなり早い段階で最強クラスのキャラになってしまうんですが、そこからトリッキーな展開でお話を転がしていく様が実に面白かったです。主人公がいくら強くても、結局この世界は政治で動いているという感じの話で。誰かを守りながら戦うことになったり、策略にはめられたりで、「常に自分より格下の相手に苦しめられる主人公」という構図がなかなか新鮮でした。
そう言う意味では、主人公の力をも遥かに凌ぐ正真正銘の「最強」キャラである東方不敗が、全七巻中のほんの六巻冒頭で物語から退いていったのも象徴的です。その一方で、腹に一物も二物も持ちながら善人面してきた連中が後半で遂に本性を顕わにし、残虐奸知の限りを尽くしはじめる様は何とも言えない壮絶さがあります。武芸における強さ以上の、ドスの利いた凄みをそこに感じました。
作者の金庸さん自身が政治に影響を与える人物であったように、一見出鱈目で破天荒なエンターテイメントである本作も、政治的な要素を帯びています。最後に訪れる平静も、邪派と正派が単純に和解し同化したわけではありません。あくまでトップに立つ者の「人柄」による一時的なものでしかないというのは、なかなか興味深い結論であったように思います。
これ忘れられてるんじゃない? って思ってしまうくらい長い間放置されてた伏線も、最後にはちゃんと回収*1されていて、これだけ引っかき回したストーリーテリングでありながら全体としてみるとびっくりするくらいピシリとまとまった*2作品でした。大長編物語がいくつも存在する中国というお国柄からなのかなのか、世の中には凄い作品があったものです。