今この時期だから書く『うみねこのなく頃に』エピソード1の読み方

うみねこのなく頃に episode1 Legend of the golden witch』再プレイ感想にかこつけて

 アニメ放送が真っ最中の昨今ですが、原作ゲームの手引き的なことを書きます。作中の個々の出来事に関する具体的なネタばらしはしませんが、作品の構造に関するよりクリティカルな言及をするのでご注意を。EP2以降もクリアしてるけど読み方が分からないとか、プレイしようかどうか決めかねている、という方に読んでもらいたい感じです。

 先日、エピソード4までの内容をふまえた上で、原作のエピソード1を再プレイしました。プレイ中に書き付けていたメモの文字を計算してみると4万5000字。何かわけわかんない量になってしまいましたが、それだけ詰まるものの詰まった作品であるということの証明でもあるでしょう。

 ひぐらしを再プレイした時もそうでしたが、この時点でも骨格の部分は意外なほどしっかり固まっていたんだなあと思い知らされることしきりでした。初読時はあっさり流してしまったような記述が、実は後の展開の示唆・伏線になっていた……ということが、至る所で散見されます。既に後の展開を知ってしまっているというところを差し引けば、明らかに再読時の方が読み応えのあるテキストです。

エピソード1は"地味な作品"

 上記リンクは、本作エピソード1のアニメ版に対する反応(ネタばれあり)。なんかドッカンドッカン騒がれているようですが、うみねこという作品の全体で見れば、このエピソード1は後の展開の下地を作るためのたいへん地味ーな地盤固め、まだ奇を衒ってもいない準備段階に過ぎません。物語の展開だって実にオーソドックスで、予定調和以外の何ものでもありません……と、ひぐらし経験済みの人は思うでしょう。正直、意外性がなくてちょっと物足りなかったのでは?

 展開全体が作品の下地固めに徹しているせいで、本エピソードだけを読んでも、「本作の独自性」というものは片鱗すら感じることができないでしょう。いえ、実はその「片鱗」は目の前に堂々と表れているのですが、それがあまりにも突飛すぎるので、初見のプレイヤーはそれが「片鱗」だとは気づけません。どうせ何かのブラフだろうと思って、まともに取り合いはしないのです。かといって、ネタだと思ったら単なるベタだった……という面白みのない展開というわけでもなく、あえていうならネタをふまえた上で一周して戻ってきたメタだった……*1という形になるわけですが、いずれにしてもそれが分かるのはEP2以降です。

 エンターテインメント的にも、18人もいる登場人物を一人一人紹介していくという展開が仇になって、なかなか話が展開しないという難があります。それでいいです。それが結果的には作品全体の盤石さに繋がるわけですし、一作でも多くを売りたい商業作品とはポリシーが異なります。最後まで読んだ人が「最初我慢した甲斐があった」と思えるなら、それはよい作品です。

フォーマットの解体

 世に溢れるフィクション作品は、だいたい物語のフォーマット、ルールが決まっています。勧善懲悪のフォーマットなら正義の戦士が悪者をやっつけて終わりですし、推理小説のフォーマットなら探偵役が犯人を突き止めて終わりです。勿論そういうフォーマットはいつも守られるわけではなく、展開を転倒させたり、最後を外したり、色々と形を変えたアプローチが試みられていることでしょう。

 どちらにしても重要なのは、読者の頭の中に作品のフォーマットがあることを前提とした上で、多くの作品がそれをなぞったり、あえてねじ曲げたりしていることです。読者の頭の中にフォーマットがある場合とない場合で、同じ作品でも受け取り方は大きく変わってしまうでしょう。たとえば作家の森博嗣さんは、ミステリーという概念がない状態で初めてクイーンを読んだ時、探偵が物語の最後で事件の謎を次々と解いていくという"予想外な展開"に強い恐怖を覚えたそうです。

 けれど本シリーズは、そのフォーマットになかなか乗っかろうとせず、むしろそれを解体し、再構築してしまおうという姿勢を強く前面に押し出した作品です。それはルールを遵守するわけではなく、かといって無視するわけでもない、"どこまでルールを切り分けて分解しても、まだゲームとして成立するか"を見極めようとする試みに思えます。本作くらい徹底してフォーマットとルールの解体・再構築に挑んでいる作品というのは、そうそう存在しないでしょう。第一にこの一点においてこそ、私は本作を高く評価しています。

 そういう意味でもこのエピソード1は地味で、シリーズの本願である「フォーマットの解体」はまだ始まっていません。この段階では、「ミステリー」というフォーマットに水をかけて洗った程度というのがせいぜいでしょう。フォーマットの本格的な解体は、次の編から始まります。次編は本当に奇を衒いまくった目眩ましに溢れているので、腹に力を入れるならエピソード2からと言うことになるでしょう。

 エピソード1を初プレイした人は、『うみねこのなく頃に』という作品をどのようなフォーマットで読めばいいかを、ある程度見定めるでしょう。本作はそのために存在します。そして、そうやって確立されたフォーマットは、上に述べたとおり後々覆されるはずです。そういう予想を踏まえた上で、では結局これはどういう作品なのだろう? と考えることができます。それこそが、本シリーズが常に投げかけ続けているテーマなのだと思います。。

*1:はい適当こきました。