『向日葵の咲かない夏』と原爆とか

向日葵の咲かない夏 (新潮文庫)

 ヒマワリというなんか爽やかっぽいタイトルに惹かれ、そういう爽やかなお話を期待して購入! 「あなたの目の前に広がる、もうひとつの夏休み」という惹句に嘘偽りはなかったです!(えー)

 評価軸を定めづらい作品だなーと。「警察的捜査を誤導する」という現象的ミステリーとしての文脈で本作を見てみても、ちょっと上手い作品とは言いがたいです。かといってミステリー的な手法抜きでは、本作のいびつな精神性を描き出すのは困難だったでしょうし。

 本作のミステリー的誤導は、警察的な捜査のみならず、作品の醸し出す精神性を歪めるために機能しています。そして後者の意味で本作のミステリー仕掛けを追ってみると、これはかなり「上手く」作られているように思います。本作の仕掛けは、真相をテクニカルに隠蔽するためではなく、読者を叙述的に騙すためですらなく、ひたすら世界観の表現のために当てられている……と捉えることで、本作を評価する軸はだいぶ安定するように思えます。ええ、たいへん気持ちの悪い作品でした。

 あとこのラストシーンですが、これを単純に「救い」という意味合いで受け取ってる人が少なからずいるようで、あれ? そういう感性? とかなり意外に思いました。『君と僕の壊れた世界』のラストシーンを「ハッピーエンド」と捉えてる人を目の当たりにした時の驚きというか……。作中で言及されたのとは別のレイヤで、たしかに「物語」というのはそれぞれの個人によって作られるものなんだなあ、というのを改めて思った次第です。


 あと個人的に気になったのは時計の話。うちの下僕の感想を引用すると

作中で特に関係は明示されていないけど、八時十五分で止まっている時計、唐突に挿入された原爆のエピソード、終戦日に近い主人公の誕生日という要素が何かを示唆しているのかどうなのかすごい気になった。

 という話があって、これは何ですのん? と。死者に思いを馳せた単に叙情的なシーンと見ることもできますが、それにしても時計が原爆炸裂の時間で止まっているのには、もっと積極的な含みがあるようにも思えます。ちょっと検索してみた限りだと、ここを関連付けて考えてる意見はないようだったんですけれど、うーん。私トテモ気になります。(カタコト)