『来訪者』

来訪者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 裏表紙紹介によると、優雅で刺激的な艶笑譚とやら……つまり下ネタ短編集。

 刺激的というのはともかく、優雅かというとこれはかなり疑問で、表題作の主人公であるオズワルド氏なんかはたいへん独善的で差別的な御仁です。エジプト王族の愛人を寝取り、追ってに捕まったら二人とも処刑されかねないという状況で「ご婦人と一緒に旅行するのは主義に反する」と悪びれもせず一人で逃げ出す、という光景がしょっぱなでいきなり描かれます。

 その後も病人に対する差別的なネタが再三続いて、それだけなら子悪党の露悪的な一人称ジョーク小説として読めるんですが、作中の第三者が彼を一貫して「偉大な伊達男」と讃えてるものだから、これをどう読んだものかよく分からなくなります。あたまの回転が速くて小洒落てるのは分かりますが、でも下衆ですよねと。

 他の短編もだいたい似たような感じで、おのれら女性をなんや思とんのやという。いずれも悪趣味なブラックジョーク作品として読むのが正解だったかと思うんですが、基本的に「シャープで理知的である」という方向性で評価されているらしいロアルド・ダールという人の印象と折り合いが付かず、ん−? と首をかしげてしまってうまいこと読めなかった感じです。あーう、まあこういうこともあります。