情景は時にテーマに勝る - 高橋しん『きみのカケラ』

きみのカケラ 5 (少年サンデーコミックス)

5/9

 5巻で完結だと勝手に思い込んでたら普通に続いてた……。7巻までは既刊で、完結は9巻の予定とのこと。既にいつ終わってもおかしくないような「おしまい」の雰囲気が漂ってるんですが、意外と長いこと続くんですねえ。

テーマ<情景

 やっぱり、たしかな筆圧で人間の情動を描く作家さんだなと思います。主義主張を込めた「テーマ」よりも、今そこにある登場人物の「情動」そのものを何よりも優先して表現しようとする作家さん。5巻後半の戦族の心理なんかは「そう上手くいくか?」と思わされるところもあるんですが、そういう判断を圧倒してしまうくらいの表現圧があります。

お約束補正

 無力な子供が力ある大人に立ち向かう冒険活劇ですが、「敵に見つかるとかして絶体絶命」→「物語を進展させるための重要な会話」→「降って湧いた偶然で運良く命拾い」→「敵に見つかるとかして絶体絶命」→「物語を進展させるための重要な会話」→「降って湧いた偶然で運良く命拾い」→……というパターンを繰り返すというのが完全にお約束の展開になってきています。

 最初の内は「運よく逃亡」するために何らかの理由づけや秘密設定の開示などがあったのですが、後半になるとそれもめんどくさくなったのか「降って湧いた偶然」自体をネタにするような展開もちらほら。しまいには、絶体絶命の状態で一話が終わって次の話が始まったら、いつの間にか理由もなく危機が去っていたということまでありました。

 敵がデザインから言動からやたらドロンジョ一味っぽいこともあり、その辺のお約束臭はプンプンします。まあこれはこれで。

そのほか

 政族が権謀術数の果てに自滅するのは勝手にどうぞな感じですが、学者族がコバンザメ的追従の果てに一緒にひどい目に遭ってる図を見るのはもの凄く忍びなかったです。これは読み手の側の贔屓感情ですが……。