『レクイエム 私立探偵・桐山真紀子』

レクイエム 私立探偵・桐山真紀子 (講談社ノベルス)

 26人が死亡した幼稚園バス爆破事件、という強烈な要素を中心に据えた作品。一見派手な惹句ではありますが、爆破事件の惨状そのものよりも、事件後の遺族に多くの描写を割いた作品です。

 あまり遺族一人一人の内面に踏み込むような描き方はされておらず、探偵視点で"外側から"彼らを観察していくスタイルが徹底しています。探偵は雑誌のライターを名乗って聞き込み調査を進めていくのですが、本作自体にもドキュメンタリーっぽい趣きがあり。遺族会の動向や補償金問題、立場の異なる被害者間での軋轢等々。フィクションではありますが、ルポタージュを類型分類して再構成したような、モデルケース的側面を持つ作品なのかな? とも思いました。

 ミステリー的には犯人の動機がけっこうトンチっぽくて、ホワイダニットとして面白いものでした。突飛な動機ではあるので、納得度が問題になりそうではありましたが……ではどんな動機だったら納得できるのかという話であり。思想・宗教系のテロ事件は言うに及ばず、「死刑になりたかった」なんてひどい動機*1を述べる無差別殺人犯も実際に存在します。こう事例だって、もしフィクションの中で同じことを書いたら、相当嘘くさい話に見えてしまうと思うんですよね。

 殺人犯の内面を外側から語る全ての行為が抱える不可能性の問題というのはあると思いますし、その点で言えば、犯人を指してベタに「狂っている」と切断してしまっている*2ように見える流れに違和感を覚えはしました。ただ、描かれている動機自体に「現実の大量殺人事件のリアリティのなさ」をさらに逸脱しているという印象は抱きませんでした。目的と犯行を結ぶ線自体は合理的*3ではあるので、無理のないホワイダニットだったかなと思います。

*1:こんなものその時の気分でなんとだって言えるでしょうから、そのまんま単純な分かりやすい「動機」として真に受けるのはどうかと思いますが。

*2:これは前作『ルームシェア』でも感じたところ。

*3:周辺状況をブッチした、極めて近視眼的な意味で。