『アンゲルゼ(3)(4)』

アンゲルゼ ひびわれた世界と少年の恋 (アンゲルゼシリーズ) (コバルト文庫)
アンゲルゼ  永遠の君に誓う (アンゲルゼシリーズ) (コバルト文庫)

 非常に上質な作品でありました。これほどの作品が打ち切られたという事実はちょっと信じがたいのですが、それがカテゴリエラーというものなのかも知れません。残念というか、勿体ないというか。よいものがよいように扱われる世の中であればいいですね。

 主人公の精神的成長はほとんど不足なく描かれきっていたと思うので、打ち切りによって大きく削減されたのは、主に「アンゲルゼ」との対話に関わる要素だったのだと推測します。人類と明確に異なる倫理観を持った彼らと対話し、共生とまではいかなくともある種の理解を築き上げるのか、あるいはどうしようもない理解不可能性を叩き付けるのか。そういう領域にどうやってお話を持っていくか、が本作に対する大きな興味のひとつだったので、これが削られてしまったのは本当に惜しいことです。

 それでも、五冊構想だったものを四冊に削減されていながら、これほどしっかりまとまった作品になっているあたりに須賀さんの底力を感じることができます。主人公の成長と、アンゲルゼという異生命の存在。二つある柱の内の一方に重心を寄らせることにより、両方が中途半端になってしまう事態を避けつつ、主人公の成長というメインテーマを描ききることには成功したと。やり残したことはあれど、やはり本作は「名作」と呼ぶべき作品だと思います。