圧倒的な"意味"の量
学園編開始。相変わらず、密度の高さに恐れ入ります。コマ数やセリフが多いわけでは決してないし、さらっと読もうと思えば平均的なジャンプコミックスなんかと同じくらいの時間で読むこともできるでしょう。でも、「全ての表現に意味がある」と作者を信頼した上で背後の文脈を意識しながら読んでみると、文字のびっしり詰まった『デスノート』くらい時間がかかります。
文字量の膨大な『デスノート』を読むのに時間がかかるのは当然です。でも、本作はセリフの量としては比較的あっさりしたもの。それこそ"漫画表現"としての圧倒的な意味量が内包され、あるいは背後に控えているからこそ、理解にこれほどの時間を要するのでしょう。
技巧的なことをさらっとやる
たとえば冒頭から、「王位継承者だけど変人のDX」と「アカデミーに通ってるけど貧乏人のフィル」という正反対の二人を、共に「一見そうは見えない」という共通点で相似的に見せる、ということをやっています。これなんか、ほんの10ページ程度でさらっと描いているんですけれど、よく考えてみるとかなり技巧的な表現です。
しかも、この一連のシーンは見せ場でも何でもなく、導入のほんの一エピソードといった扱いで軽く流されています。特に気張らずとも、このくらいのことは呼吸をするように自然とやれてしまう。そういう人が大長編構想を見据えて描いている漫画なわけですから、これが面白くならないはずはまあありませんよねと。
「特徴がわかりにくい」からこそ印象に残るキャラクター
新章突入ということで新キャラが惜しみなく登場し、それぞれとても個性的なのですが、その印象に反して、「彼らはどういう性格なのか」が実はよく分からんかったりします。私たちが頭の中に自前で持ってるデータベースにぴったり当てはめられる記号的描写が存外少なかったり、相反する描写があったりして、収まりのいいポジションに位置づけようにもどこか違和感がある。だから判断を保留せざるを得ないのですが、その違和感こそがキャラクターの強い印象に繋がっている……というところがあると思います。
フィルなんかはかなり分かりやすい方ですが、ティティの人とかは特徴的な言動をするくせに、ほんと何考えてるか分からない。そういう捉えどころのないキャラクターは、確固としたイメージがないので記憶に残りにくい、という気がします。でも本作では一人一人の「捉えどころのなさ」がちゃんと異なる風、異なった印象で描かれていて、実はすごく記憶に残りやすい。「キャラクターを立たせたければ、分かりやすい特徴を与えましょう」というよくある手引き的な教えとは逆のことをやってるわけです。
たとえば記号的な「委員長キャラ」なんかは、ひとつの作品の中に限っていえば、たしかに他のキャラクターと差別化しやすいのでしょう。ただ、そういうキャラの印象は、ひとたび作品の外に出ると「他の多くの委員長キャラ」のイメージと混同されてしまいがちです。一方の本作では、メイン張ってる中で類型的なタイプと混同してしまいそうなキャラクターはほぼいません*1。何を描くにしても常に背景や文脈を持たせ、ただ"見たまんま"には決してしない人なのでしょう。
*1:脇役で、いかにも嫌味な同級生みたいなのはいますが