映画『ひぐらしのなく頃に 誓』が驚いたことに良作でした!(ネタに非ず)

劇場版「ひぐらしのなく頃に 誓」スタンダードエディション [DVD]

「どうしてこうなった」の反対。「誓」を観てから無印の方を見ると、むしろあちらの方が「どうしてああなった」のかと思いますけど。何にしても前作とは比べものにならないほど良い作品に化けていて、劇場で観なかったのが悔やまれます。

 前作は「鬼隠し編のエピソードを実写で再現しつつ、収まりきらないシーンはばっさりカットした」という感じでした。一方の本作は、焦点を罪滅し編テーマ「友情の回復」の一点に絞っていて、それに関係のない要素*1をカットしているのは当然、残されたシーンもガリガリ繋ぎ替えてスピーディにしています。原作を"忠実に"トレースするという思想はなさそうで、「ああ、この台詞は原作にもあったな」という箇所が逆に目立つくらいです。

 それでも、全てのシーンがテーマに向けて意味を持つように作られているので、違和感は(改編の大胆さと比べると)意外なほど少なく思いました。原作の『罪滅し編』は、多くの登場人物の視点を多層的に絡めながら物語を織り上げていく群像劇的構成が面白かったのですが、尺に収まりきるわけもないその構成を切り捨て、部活メンバーの心理にのみ力点を置いたのは英断だったと思います。結果的に、冒頭の水鉄砲合戦からクライマックスまで、一本の線で繋がったストレートな物語に再構成されていて、上映時間を考えれば最上の選択だったのだろうなと思います。

 設定的なところで原作未読者を置いていきがちなのは今回もそうですし、映画単体で見ると感情描写の積み重ねが尺足らずになっている感も否めません。結果的に、原作既読者で、なおかつ「あのシーンがない」といった不満を覚えず、テーマこそが本質と割り切って映画を観られる人……と、ストライクゾーンはわりあい狭くなってしまうのかもしれません。ですが、その辺のハードルを難なくクリアできるようなコアなファンにとっては、「ひぐらしの実写化」として十分観られる作品になっていると思います。

 本作公開後、続編企画のアナウンスが出ていないのは残念です。出来のよろしくない無印がなまじ興行的に成功してしまったせいで、かえって本作を観にいく人が減ってしまったように思えるのは、皮肉というほかありません。この質の作品が維持できるのなら、次回こそは是非とも劇場で観たいのですけどねえ。

 というわけで、本当ならこの「誓」だけでも観ろ、と言いたいくらいです。ただまあ、実写の雰囲気や演じている役者さんのギャップに慣れるため、いちおう無印から観ておいた方が作品に入っていきやすいだろうとは思います。何にしても、本作が無印とひっくるめて「黒歴史」扱いされている現状は、あまりにも惜しいことだと思います。とりあえず近所のレンタル屋さんに借りにいき、気に入ればDVDを買うなりすれば、少しでも続編制作への望みを繋げることにはなるのかな、っと思いますよ。

*1:レナの「冷静さ」の描写とか、祟りや蛆湧き病の真偽とか、梨花ちゃん視点の話とか。