『天体の回転について』

天体の回転について (ハヤカワ文庫 JA コ 3-3)

「海を見る人」の正統続編とでも言うべき、直球のSF短編集。表紙の女の子は起動エレベータのガイドさんで、つまり「軌道エレベータガール」という洒落なんでしょうか。

 表題作は、このガイドさんが起動エレベータの仕組みについて延々と説明してくれる内容。道中たいしたアクシデントが起こるわけでもなく、軌道エレベータ旅行とその解説だけで短編一話をまるまる使っているんですけれど、これがまったく退屈しません。ものすごく良くできた学研の科学漫画みたいで、まるで冒険活劇を読んでるような感覚になります。他の作品はいつも通りのエログロクトゥルーなのでアレですけれど、表題作だけは児童推薦図書の棚に並べてもほんとう違和感ないと思います。

「科学的思考ができない人」の言動を極端に描くことで正真正銘サイコホラーの域にまで達してしまえるのが、小林さんの作品の凄いところだと思います。本書表題作の冒頭や「三百万」なども、「科学的思考」それ自体にテーマが当てられています。「科学的思考のできる人」「できない人」の差異が戯画的に書かれていて、私たちが普段無意識に行使している思考方法が通用しないとどんな事態になるか、ということがよーく分かります(喩え話が通じなかったりとか)。技術そのものを持ち出さず、思考法自体をネタに書かれた小説って面白いです。

 今回はいつにもまして、科学っていいよねーという肯定的メッセージに溢れた作品集だったと思います。とはいえ意地の悪い小林さん、単純に夢のありそうな話には必ず斜め横からのチョップを飛ばして釘を刺し、それもまた作品のネタにしています。別に作家にリテラシーを求めるものでもないのでしょうけど、このあたりの手つきもバランスのいい作家さんなのかなと思います。