免罪符と化す「太田が悪い」

 これとかこのへんの話について(『ぼくらは虚空に夜を視る』回収の件は、現時点で星海社サイトに告知が出ていないので真偽不明。回収連絡のメールから一週間も経ってるのにサイトで告知が出ないのも変なので、ちょっと怪しい情報だと思ってます→太田さんから否定の発言があったのでデマ確定。ひとまずよかったです)。

 星海社まわりにおける「太田が悪い」は、お決まりフレーズとして定着した感があります。でもこのフレーズを繰り返しギャグのように使うのは、太田さんへの戒めというより(星海社周辺への)免罪符として機能するんじゃないかな、とちょっと不安を感じ始めています。

 もともと太田さんはマーケティングの巧い人で、一部読書家の間では結構な有名人です。風変わりな作品をセンセーショナルに売り出すことで人目を引く一方、編集者である自分自身の名前を前面に出し「名物編集」としてのブランドイメージを印象づけることに長けた人、といったところでしょうか。良くも悪くも、自分自身の名前を売り込むことにかけては小説業界でも屈指の情熱を持つ編集者、くらいには言ってもいいでしょう。

 ところで、筒井康隆さんによる『ビアンカ・オーバースタディ』の「太田が悪い」あとがきは、さすが筒井御大という感じのうまい文章でした。作品の出版過程に苦言を呈しつつも、その責任を太田さんのキャラクターに帰することで笑い話にし、星海社としてのイメージダウンも避ける。自分も言いたいことを言いつつ関係者全員のダメージを最小限にする、ユーモアの利いたあとがきだったと思います。

 ただし太田さんにとって、この一件は伯付けにもなりました。実際↓こういう反応をされていますし、「あの筒井御大にすらネタにされた太田克史というキャラクター」は今後彼の武器のひとつになるでしょう。*1

 別にマーケティングの話がしたいわけではないので、太田さんについての話はここまで。問題は、「太田が悪い」という繰り返しギャグフレーズが、本来の言葉の意味を失わせる一種の不条理ネタとなっていることです。「それにつてけも金のほしさよ」のノリで文末に脈絡なく「太田が悪い」とつける遊びが流行りましたし、その後に続く『竜騎士07インタビューズ』回収等を経て、星海社でなんか問題があったらとりあえず「太田が悪い」と言っておく風潮は今後も続きそうな雰囲気に思えます(特に『ぼくらは虚空に夜を視る』については、リンク記事の時点で太田さんとの直接の関係がよく分からない*2にもかかわらず、とりあえず「太田が悪い」言っとけという感じになっています)。

 太田さんとの関係が不明瞭だったり、明らかに関係ないところで「太田が悪い」というフレーズが繰り返されることで、この言葉の本来の意味は崩壊します。繰り返される「太田が悪い」は、「本当に太田が悪いのかどうか」をなんだかよく分からないものにします。「××だからしょうがない」という論法よろしく、本来追求すべき(かも知れない)責任をネタ化して無意味化します。星海社にちょっとしたミスが多い、という話題の中に「太田が悪い」がいくつも並んでいくのを見ていて、これちょっと悪い傾向なんじゃないかなーと思い始めた次第。

 と、ここまで真顔で書いたんですが、ふと我に返ると別にいいじゃんこのくらいー、他愛のないよくあるネタじゃんー、という気分がむくむくと湧いてきましたねー。たしかに責任の所在や責任そのものがネタ化して曖昧になるのはよくないのですが、他愛ない冗談をひとつひとつ叩いて回るのもまたおかしな話です。要は程度とバランスの問題だし、と何の面白みもない日和った結論に辿り着かざるをえません。似たような話は至るところにあるのに、なんでこの件だけ引っかかったのかというと、これはもう私の側の意識の問題でしかないような気がしてきました。ぶっちゃけ星海社の派手な方針は苦手なんですが、竜騎士07さんとかナイトウォッチシリーズとか泉和良さんとか私の好きな諸々の出版をいちいち星海社が握ってるという弱みがあってですねー、そこで回収だの誤字だのという話が持ち上がってきて、回収してミスを修正した本を「完全版」って銘打って再出版するみたいなちょっとそれどうなのという話を耳にしてたら、まあセンシティブにもなるわけです。

 というわけで、太田さんおよび星海社について話題にする諸兄諸姉におかれましては「太田が悪い」をネタにするのもいいのだけどそれもほどほどに、明かな不手際までネタのように流す空気には警戒しましょうよ、という話でありました。

*1:ただし「太田が悪い」に関しては、『竜騎士07インタビューズ』回収発表後に太田さん自身からこういうコメントが出されています。 https://twitter.com/FAUST_editor_J/status/233955660608438273

*2:担当編集とのことなので、誤字・デザイン等への突っ込みについては的外れというわけではないようです。