管理職視点のパーティ編成が楽しいギルド運営RPG『冒険者ギルド物語』

 ここ1ヶ月ほどずっとこれやってます。ギルドマスターを「管理職」と呼ぶのが正しいかどうかは微妙ですが、キャラクターとアイテムを細かく「管理」して適切に「運用」することに主眼を置いた命令者視点のゲームということで、そんな的外れな表現でもないのかなと。「艦これ」なんかもそんなところありますが、プレイヤーが介入できる要素がより多く、マスクデータもほどほどなので分析や試行錯誤がしやすくなっている感じでしょうか*1

 (→)こんな感じのiPhoneアプリ(残念ながらAndroid版とかはないもよう)。使用されている画像はキャラクターのシルエットだけという、見ての通りえらい渋いデザインです。ウィザード・リィとかあの辺りを下敷きとしているらしいので、方向性としては玄人向けのゲームと考えて間違いないでしょう。今のところ完結した「1」と随時アップデート中の「2」がありまして、私がメインで遊んでるのは2の方。1ヶ月くらい継続して遊んでてレベルは高いキャラで40くらいです(さっきようやくレッドドラゴン倒しました)。まだまだ初心者を抜けた程度でクリアは程遠いですし*2話題になるところではとっくに話題になってるゲームなのでだいぶ今更感があるのですが、紹介記事が乱立してるほどの状況でもないようなのでここまで遊んだ感じをざっくり書いてみたいと思います。

徹底的に準備して、結果を寝て待つRPG

 本作は見た目だけでなく、ゲームとしての根本的なデザインもきわめて単純です。キャラクターを作って武器防具を装備させ、パーティ組ませてダンジョンに向かわせる。冒険者ギルドのマスターであるプレイヤーがゲームに介入できるのはここまでで、出撃中のパーティには緊急帰還以外の具体的な指示が一切出せません。探検および戦闘は全てオートで行われ、一定時間後に目的を達成したパーティが生還*3するか、全滅した死体が送り届けられてくる……という、いわゆる「放置系RPG」です。同じ系列だと「ゆけ!勇者」や「僕の魔界を救って」が有名ですね。

 最初のうちは雇えるキャラも少ないし装備枠も2、3個なので、適当に作った戦士にロングソードとアーマーを装備させてスライム退治行ってらっしゃーいという感じになります。数分もしたら経験を積んでちょっとレベルの上がった戦士がアイテムとお金を拾って帰ってくるので、稼いだお金で新たなキャラを雇い、手に入れたより強力なアイテムを装備させ、パーティを組んで次のダンジョンに向かい……以下繰り返し。どれだけゲームが進んで複雑になってきても、この大枠は一緒です。

 ……という風に説明すると、自分で戦闘指示も出せず成り行きを見守るだけの運ゲーのように思えるのですが、敵が強くなってくると運任せではどうにもならなくなってきます。各戦闘には20ターンの時間制限があるので、しっかりと防御を固めつつタイムアップ前に敵を倒しきる攻撃力を確保する必要があって、これがなかなかシビアなバランスなんですね。その代わり、負けた時はログを読み返して「攻撃が通らなかった」「防御が薄過ぎた」「そもそもレベルが低すぎた」等の原因を分析することができるので、敗北を理不尽に感じることはあまりありません。

 まあたまたまボス直前に低確率のトラップが爆発して、瀕死のパーティが本来なら同格程度の相手にボコボコにされる、みたいな不運もないではないです。でも本作の全滅ペナルティは比較的優しくて、道中拾ったものを失う以外にキャラやアイテムのロストは一切ありません(さほど高くない蘇生費用がかかるのと、蘇生の際ごく稀にレベルが下がる*4程度)。周回中に何度も死ぬようならそのパーティ編成が不安定ということなので少しランクの低いダンジョンに潜ったほうが効率がいいかもしれませんし、5回10回と挑戦してもストーリーボスに勝てないなら素直にレベルを上げるか根本的な戦法を見直したほうがよさそうです。

 というわけで、根本的なデザインはシンプルながら実際に考えるべきことはかなり多いのが本作です。ゲームが進んでくるとパーティひとつ組むのにもいろいろ気を遣いまして、前衛の壁役、雑魚を蹴散らす連続攻撃アタッカー、ボスや固い敵にダメージを通す一撃必殺アタッカー、呪文アタッカー、回復とサポート呪文役、さらに宝箱解錠用の盗賊なんかをバランスよく組み込まないと安定したダンジョン探索はできません。パーティ自体もギルドを拡張すれば同時に6部隊まで運用できるようになるので、レアアイテム収集用、資金調達用、新人育成用など、長期的な目的を持ったパーティを作って連携して回していくことが効率的なゲーム攻略の鍵になってきます。

わりと極端な戦術カスタマイズ


 キャラクター一人一人についても、種族、前職、本職(2では個性も)の組み合わせによる根本的なキャラメイクに加え、アイテム装備枠が許す限り何をいくつでも装備できる『サガ2』方式が編成を面白くしてくれています。本作にはFF5みたいにスキル(アビリティ)をセットする独立したシステムはありませんが、ほとんどの武器防具が「攻撃力の6%をHPに加算」「Lv4以下の僧侶呪文習得」みたいなスキルを固有で持っているので、アイテム装備とスキル装備のインタフェースが統合されていると見ることができます。(これも『サガ2』と似た感覚ですね!(←サガファン))。「獲得経験値1.4倍」のスキルを持つ「幸運のコイン」を装備すれば成長が劇的に早まるけど、能力値を底上げする武器や防具を装備する余白がひとつ消える、みたいなジレンマを楽しめるわけですね。

 この仕組みのおかげで、盗賊に中途半端な武器を持たせず全身ヨロイで固めてとにかく開錠のみに専念させるような思い切った編成とか、体力も装備枠も有り余ってるけど攻撃を任せると微妙な壁役に「守護のオーブ」と「先制の腕輪」を持たせて戦闘開始とともにバリアを張ってもらうような細かい調整など、面白い頭の使い方ができるようになっています。敵の攻撃が届きにくいため防御を手薄にできるパーティ最後尾にニンジャや剣聖や弓使いを置き、全身に弓と小手とスリケンを装備させて高い攻撃力と攻撃回数と必殺率を確保、戦闘開始と同時に10連続ヒットのクリティカル攻撃をぶちかまして開幕爆撃よろしく敵を一掃するなどの極端な戦法も可能。まあ相手が反撃持ちの場合は配置関係なくあっさり返り討ちに遭ったりするので、どこでも通用する必勝法というのもなかなかな存在せず、この点も良いバランスです。

 ギルドを拡張して同時に運用できるパーティを増やしていくと、プレイヤーは最終的に6パーティ×6人=36人+予備メンバー、くらいの規模の人員と膨大なアイテムを管理することになります。こうなるとプレイ感覚はもうシミュレーションRPG。その頃になると一人あたりの装備欄もたいてい10を上回っているので、全員の装備を常に把握しておくだけでもかなり大変です。もちろんそこまで細かい調整をしなくても確実に勝てるダンジョンを愚直に回してレベル上げてれば少しずつゲームは進みます。そのうえで、きめ細かに管理すればした分だけ確実にクリアが近づく、という風に自分でペースを決められるのが本作のいいところかと思います。

高難易度ながらわりと低ストレス

 本作は放置ゲームの特性上、クリアまでに半年くらい時間がかかるように設計されているそうです。そのため、最大限効率的・戦略的に進めたとしてもなお、レベル上げやアイテム収集に相当な時間がかかるように調整されていて、この点に関しては「毎日・長期的にプレイする前提」のネットゲームやソーシャルゲームと同じ感覚です。だからどうしてもその手のゲームと比べてしまうのですが、時限イベントやランキング競争のようなものが(少なくとも現時点で)存在せず、「最大効率で進まないと後ろから来たやつに追い越される」という焦りがありません。編成に頭を使う気力や余裕がないときは、とりあえずありあわせのパーティで手頃なダンジョンを探索させるだけでよくって、それで相対的に自分が不利になるということはない。じっくり編成を練り直して攻略計画を立て直すのは、自分に余裕のできたときで遅くない、と。ソロプレイ前提のゲームだからだから当たり前の話ではあるのですが、ネットゲームに慣れてくるとこういうところで地味に安心できますね。

 また、本作には「取り返しのつかない要素」というものがほとんどありません。前述したように全滅によってキャラや装備品がロストすることはないですし、入手機会を逃すと二度と手に入らないアイテムも(私の知る限り・今のところ)存在しないようです。キャラの固定的な性能は種族・前職・本職の組み合わせとレベルが全て*5、そこに装備のカスタマイズによる流動的な個性を持たせるというシステムなので、スキル学習・パラメータ割り振り等の育成に失敗してリセットしたくなるようなこともありません。キャラメイクそのものをやり直したい時は流石にレベル1から育て直す必要がありますが、新人のレベルを効率的に上げる手段は豊富に用意されていて、そこは攻略要素のひとつ。NPCキャラの転職だけは唯一取り返しのきかない要素ですが、それも200円のアドオンでNPCキャラの初期化が解禁されるので、まあどうとでも。

 有料アドオンに関しては、経験値やお金、レアアイテムの獲得率を永続的に向上する加速系と、広告消したり放置時間のスパンを増やしたりキャラメイク時のランダム個性を選択可能にして「引き直し」作業を省くなどの快適系の2タイプが主。ガチャやアイテム課金みたいなのはありませんし、加速系にしても「お金を払ってゲームを有利にする」というよりは「ゲーム速度を好みのペースに調整するためにお金を払う」という感じなので、わりと気持よくお金を払えるたぐいの課金形式なのかなと思います。

攻略意欲を牽引するストーリー

 あとストーリー。シンプルな骨子で構成された素朴なゲームという風に紹介してきたんですが、その傍らに控えめに添えられたストーリーも結構しっかりと作られています。場末のギルドが小さな依頼をこなして実績を積んでいくうち、世界の命運に関わる大事に巻き込まれていく……という筋書きは特に奇を衒ったものではありませんが、ゲームシナリオの第一の役割である「攻略意欲を牽引する」ことを十分に果たしていると思います。

 その見せ方も、新規ダンジョンをクリアするたびにシナリオテキストが解放される、あるいは冒険ログの要所にテキストがに埋め込まれているという形式なので、ゲーム部分をほぼ圧迫しないのが好印象です。興味がないなら読み飛ばせるし、後からいくらでも読み返せる作り。ゲームをやっていれば自然と話が頭に入ってくるようにできているので、プレイヤーを無理なく物語にコミットさせることにも成功しているかもしれません。最初はさほど気にせずふんふんと読み進めていたのですが、いつの間にか物語の続きが気になって攻略を急いでいる自分に気が付きました。

 作者さんは文章を書くのにいちばん手こずるとおっしゃっていて、たしかに「1」の方は何となくぎこちないのですが、「2」までくるとだいぶこなれてきた感があります。ちょっとしたエピソードが付くだけでシルエット画像だけのキャラクターも生き生きと見えてきますし、冒険中に拾える「手記」も読んでるだけで結構面白いので「コンプリートして報酬アイテムをもらう」以上の楽しみ方ができます。「2」は「1」の200年ほど過去の話、今後開発予定の「3」は「1」の未来の話ということらしく、けっこう大きな構想になっているのでぜひ完結させてもらいたいところです。

不満点とか

 提灯記事並みに褒めてしまったので悪いところも挙げておこうと思ったのですが、あまり目立った欠点が思いつかないんですよねえ……。ある程度ストーリーが進むと敵がものすごく手強くなり、何日もぶっ続けでレベル上げや資金稼ぎに励まないといけないのが辛いといえば辛いんですが、放置ゲームのタイムスパンってそういうものですし。戦果確認→再出撃の作業は一瞬なので、作業ストレスはないんですが、逆にその手軽さ、あっけなさが「はよ強敵の攻略に頭使いたい」というもどかしさに繋がる面はあるかもしれません。

 本作はキャラメイクの多彩さをウリにしており、たしかに色んな戦術・戦略に試し甲斐があるのですが、極めていくとどうしてもある程度の「最適解」が見えてきてしまうというのもあります。他のプレイヤーと情報交換しつつ試行錯誤していくのがこの手のゲームの楽しさのひとつだと思いますが、その情報の集積場所であるwikiを見るといきなり「最適解」に辿りつけてしまったりもするので、どこまで情報をシャットダウンするかの兼ね合いも難しいところ。あー、でもこれもこの手のゲーム一般の問題であって、別に本作に限った話じゃないですしね……。「目立った粗があまりない」というのも、本作の長所のひとつなのでしょう。

「2」は開発途中の段階ですし、「3」の完結まで考えるとかなり気の長い話になります。シリーズが最終的にどんな形になるかはまだまだ見通せませんが、現時点でもiPhoneゲームの地味な良作のひとつとして十分に名を残しうる作品でしょう。プレイ感覚はフリーゲームとかの「あの感じ」にかなり近いので、そっち界隈の人にもおすすめ。まだ年明けですが、今年はけっこう長いことこのゲームと付き合っていくんだろうなあという予感がしています。

*1:参考:http://gameandmusic.hateblo.jp/entry/2013/12/17/143259

*2:そもそも「2」はまだそこまでストーリーが実装されてないんですが

*3:いちおうタイムアップにより逃亡して生還というパターンもあります。

*4:まあ終盤になってくると、レベル低下も馬鹿にならないペナルティみたいですが。

*5:いちおうステータスのランダム増減はありますが、いい成長をするまでセーブ&リセットを繰り返すようなことはできないので……。