『芥花』 - 拷問RPGで推理ゲームな七人の少女と悪魔の感情と記憶

 突然辺獄に召喚されて「このままでは1年以内に死ぬ」と告げられ七人の少女(致死者)たちが、「死因の記憶」を現世に持ち帰って死を回避するため、契約した悪魔の力を行使して参加者どうしで拷問しあう"ゲーム"に身を投じていく……という、紹介だけ聞くとえらく陰惨なRPG。ただ「釘」とか「串刺し刑」とかスキル名こそおどろおどろしいものの、実際直接的なグロテスク描写が連発されるわけではなく、戦いの目的もあくまで「相手の意思を折ること」なので、さほど猟奇的という印象は受けませんでした。

 悪魔や辺獄の住人は基本的に賑やかだったりトンチキだったりして、悪しき者ではあるのですがどこか憎めません。話の本筋もそれぞれの少女たちの抱える「心の秘密」に焦点を当てるもので、「人の心を覗き見る」というある種の悪趣味なテーマを前面に押しながらも、全体的にはむしろ繊細な物語でした。少女と悪魔はゲームのためにそれぞれペアを組むんですが、比較的現実寄りの性格、デザインの少女たちと、派手な衣装で外連味たっぷりの挙動をする悪魔たちの組み合わせが面白いです。少女たちは同じ学校の同級生なので、生前からいくらかの因縁もあり、感情のやりとりがあります。いいですね、感情。

 拷問バトル部分は、RPGとしてかなりしっかり調整されている印象でした。レベル概念はなく、雑魚戦は回避可能なので、基本的にはボス戦に焦点の当てられた戦闘。高難易度のボスに初期状態で勝利するのはかなりの難易度で、ピーキーな戦い方が要求されます。ただし周回前提で複数のクリアルートが用意されていて、習得スキルやアイテムなどは周回を持ち越せるので、最終的にうまいバランスに落ち着いていると思います。戦術を大別すると「傾向」(テンション的なパラメータ)を上げて短期決戦でいくか、「傾向」を下げて長期戦で構えるかなのですが、ボスはそれぞれ発動条件の異なる即死攻撃を持っていて、相手によっては序盤を温存して終盤一気に畳みかける必要があったりするので、一戦ごとに結構頭を使いました。

 だらだら戦っていると消費アイテムがどんどん消えていくし、この消費アイテムもまた「何回か雑魚戦すれば回収できる程度の値段」「一周で何個も手に入らない程度に貴重」など絶妙なところに設定されていて、「もったいない」というジレンマとの戦いでもありました。いちばん苦戦したのはスラバーナ戦でしたかね……(別の勝ち方もあったみたいだけど正面から倒してしまった)。

 拷問バトルの本来の目的は「拷問で相手の意思を折る」ことですが(これで各キャラにまつわるエピソードが解禁される)、相手のライフをゼロにしてミもフタもなく殺害する「拷問失敗」は極めて簡単に達成できるため、とにかくストーリーを進めると割り切れば戦闘そのものに勝利するのは容易という作りになっています(手間を惜しんでなにか大切な人間性が失われていく気持ちを体感できます)。イベントシーンのスキップやショートカットなども豊富で、周回プレイ前提にものすごく親切な設計がされているのが嬉しかったです。

 極めつけは公式サイトにネタバレ攻略ページが用意されていて、各ルートのクリア条件から隠しスキルまで攻略wikiがいらないくらい全ての情報が網羅されていること。戦闘はだいたい自力で解きましたが、終盤細かい要素をコンプしていく流れになったときは大変お世話になりました。

 あとユニークだったのが、RPG戦闘一切なしで本格的な推理ゲームが展開する「ビョウドウ編」。これが本当によくできていて、「悪魔や異形が跳梁跋扈するファンタジー世界でいかに推理ゲームを成立させるか」をかなり丁寧にやっています。公式ツイートではっきり明言されていますが、まあつまりそういう趣向。「赤字」など知ってる人が見れば「おっ」と思える要素を織り交ぜつつ、RPGツクールの制約を逆に利用した情報整理モードが用意されてたりして面白いです。(「推理空間」が登場したときはものすごくワクワクしました)。

 推理って何もお膳立てがない状態だと自由思考の遊びになるので、プレイヤーは「作者側の想定していない別解」をいくらでも思いついてしまうし、それが物語中で提示された真相と食い違うと不満が湧いたり消化不良になってしまいます。だからこういう推理ゲームでは、プレイヤーの想定できる可能性の範囲が的確に制限されるよう誘導した上でちゃんと推理もしてもらい、「自力で解いた」経験を味わえる作りにすることがとても重要だと思うのですが、本作はここが非常にしっかりしていました。

「悪魔の能力でできること」をはっきり提示して脱線の隙間を丁寧に埋めつつ、真相に近いところでわざと口を濁して「例外」が通る隙間を空ける。解決に必要な手掛かりははっきり提示し、「ここにある情報の組み合わせで仮説を組み立ててね」と匂わせる。事件の真相を自由記述で回答するシステムはこういうゲームには不可能なので、最終的には犯人当てというシンプルな回答方法になってはいますが、全部の真相までは言い当てられず犯人だけ当ててクリアルートに入ったところ、「そういえばあの情報だけ使ってなかったな」と引っかかっていたところが真相の最後のピースにハマったので、プレイ後の納得感はかなりのものでした。

 だいたい15時間弱ほどプレイして、一通りのルートは見られたと思います。もう少し彼女らと関わっていたい気もしましたが、主人公芥花の物語としては十分描かれていたと思うし、全キャラとの個別ルートを用意するようなタイプの話ではない気もするので、このくらいの突き放し方がちょうどよいのかもしれません(作中でも仄めかされているように、プレイヤーだからって何でも見たがるのはある種の強欲な悪趣味かもしれませんし)。それぞれの致死者・悪魔ペアの話とか、ゲームマスターであるルイゼットの話はまた見てみたい気持ちがありますが、そこはまた別の機会に期待、なのかもしれません。