小林泰三の巨大フジ隊員への執着が楽しめる公式コラボ小説『ウルトラマンF』

 小林泰三さんでウルトラマンと言えばハードSF仕立てのパロディ小説『ΑΩ』ですが、こちらの『ウルトラマンF』は円谷との正式なコラボ作品。デビュー後の初長編でいきなりウルトラマンネタをやらかした小林さんなだけあって、好きで描いてる感の伝わってくる良いノベライズでした。

 『ΑΩ』は人間が巨人化する際の質量増加を大量の死体の吸収で説明するなどグロテスクホラーの趣きがありましたが、本作は公式コラボなだけあって流石にそういう悪趣味なネタはやってきません。代わりに焦点が当たるのは地球からウルトラマンが退去した後の世界で科特隊が怪獣にどう立ち向かうか、法や倫理に科学者はどう向き合うかといった人間側の課題。科学リテラシーの高さゆえに*1周囲の人間とズレた会話をする科学者、という小林さんの小説でお馴染みの役回りは、本作の実質主人公である科特隊のイデ隊員に割り振られています。大真面目なのにどこかユーモラスな会話が終始交わされ、グロ要素はなくとも小林さんのテイストは全開です。

 そんな中で物語の主軸となるのは、やはりタイトルにもなっている「ウルトラマンF」こと巨大フジ隊員がいかにして怪獣に対抗する人類の切り札となっていくかなんですが、この辺はもう完全に「巨女」文脈のフェティシズム的執着です。本書のあとがきにはこのコラボ企画が巨大フジ隊員テーマとなった経緯や小林さんの異様な執着がひとしきり説明されていて、どこまで冗談なのかは分かりませんがこんなに筆が走ってる時点で小林さんの入れ込みようが見てとれます。本作に限っては、とりあえずあとがきから読んでみるのがおすすめかもしれません……。

*1:単にマッドサイエンティストだからな場合も往々にしてありますけど……。