『チンギス紀 四』

「殿は何を目指しているのか」的な話がいっそう増えてきましたね。テムジン視点のシーンもないではないけど、彼は基本的に内面のはかり知れない一種の超人のような描かれ方をしています。圧倒されながらも追い縋ろうとする周囲の人々の描写によってテムジンの人物像が浮かび上がってくる感じで、描き方としては楊令に近い主人公ですね。

 水滸伝は圧政への抵抗! 志! というところが非常に明快でしたし、前作の岳飛も迷いや信念をあれこれ吐露してくれる人間味があって分かりやすい人物でした。それと比べると楊令はかなり超越的で、「何か常人には見えない大きなものが見えている」キャラクターでしたが、国家の枠を超えた営みを樹立しようとしていたという大筋自体は単純なので、これもまあ分かりやすい話ではあります。

 じゃあテムジンはと言うと、後世の人間からすれば彼がモンゴル族遊牧民の統一を超えてもっと果てしない覇業を成し遂げることは当然知ってるんですが、これまでの世直しや時代の開拓といった理想と比べるとかなり異質で、もうはっきりとめちゃくちゃ血生臭い所業に繋がっていくわけじゃないですか。「真の男の見果てぬ夢」とかで美化するにはあまりにも殺戮の度合いがえげつなすぎるし、テムジン自身も自分が何に衝き動かされているのかよく分かっていない。単純な野心や向上心が核には見えないし、民や志のためでもない。今のところ本人の望みというよりは宿命的な業との間で葛藤しているように見えるんですが、たまにそこんとこに触れても「何やろこれ、天? 天かぁ……」みたいな曖昧なことを言っている。怖い。かなり怖いです。こっからどう持っていくんでしょうね……。