『ミナミノミナミノ(1)』
『イリヤの空、UFOの夏』のようなもの、ということで作られた本作ですけど、別に焼き直しというわけでもありません。意図的にリンクさせているような要素も見受けられませんし、似ている点を探してどうこうするよりも何も気にせず単体として読んだ方が楽しめそうです。軽快ながら優れた表現能を備えた文体も健在なので、これまでの秋山さんの作品が気に入っているなら外れはないと思います。物語としてはほんの触り程度であまり激しい展開はないので、これまでの作品の「凄まじさ」と比較してしまったら地味に思えることはあるかもしれませんが……。
とにかくまだ序章ということで、舞台となる岬島の描写に内容の多くが割かれています。そのためヒロインの春留さんの登場シーンは二割に満たない程度なんですけど、そのわずかの間に彼女の人となりをきっちりと描いた上で魅力を持たせることに成功しているのはやっぱり秋山さんの実力ですね。春留さんとと主人公が会話している時は、一人称話主であるはずの主人公よりも*1文章自体は主人公視点で描かれているのに春留さんの方に感情移入してしまうくらいです。
この一巻の時点では、まだお話がどういう方向に向かって行くのか判断できません。このまま島の中でちょっと過激な日常を送るだけという気もしますが、それどころではすまない生死のかかった闘争が繰り広げられる展開になっても不思議ではありません。(さすがに土着の神さまの祟りで連続怪死事件が起こるということはないでしょうけど) まあ、あとがきによれば次巻は殺らなきゃ殺られる大アクションということらしいので、きっとそういう流れになるのでしょう。とにかく今年中にあと二冊くらいは出してもらいたいものです……。
ああそれと、イリヤさんにも同じことを感じましたが、春留さんはやっぱり天然ボケだと思います。
*1:訂正。三人称です。何を勘違いしたのやら……