友達以上探偵未満

 本人がやりたかったのか周りに乗せられたのか、経緯はよく分からないけど「若めの読者層向けのライトな百合ミステリを書くぞ」という明確な意思が伝わってくる麻耶雄嵩さんの百合ミステリ。謎解き要素の強い推理短編が3つ、人間がさくっと死んでは、探偵志望の高校生コンビに推理の具を提供していきます。

 キャラクターものとしても極力軽くしてある感じで、探偵の女子2人もメルカトル鮎やら木更津悠也やらのアクの強さはありません。どこかでえげつない仕掛けを突っ込んでくるかと身構えてましたけど、そんな悪趣味な不意打ちもなく、最後までしっかり雰囲気が守られていました。麻耶さんってこういうのも書けるんですね……。

 普段とはがらりと違う作風ですけど、探偵が根本的に自分の欲望に忠実だったり、犠牲者や犯人に対して妙に淡白だったりするあたりは確かに麻耶さんの小説だなと思います。ロジック担当のあおがクールで淡々としてるのは分かりますけど、賑やか担当で人懐こいももも根本的なところで薄情だし、人の人生を左右する探偵行為への屈託とかまるでなさそう(そもそも冤罪を恐れてないし……)。麻耶さんの入門書として薦めるにはクセがなくて作家性を掴みにくいですけど、淡白な麻耶さんが読みたい時は丁度いいかなと思います。

 

『輪るピングドラム』

 10年遅れですが視聴しました。放送当時は象徴性の強い映像に対する解釈議論でネットが喧々轟々だった印象があって身構えてましたけど、通しで見ると伝えんとしてるところはかなりストレートでしたね。

 一度頭の中で設定を咀嚼して「こういうことかな?」と推測を立てながら見ていかないと話の構図を追うのが難しかったウテナと比べ、本作は設定的なところが理解できなくても本筋として伝えたいであろうところはだいたい伝わる映像になっていて、すごく呑み込みやすかったです。どう斜に見てもある種の社会的苦難を負う層に向けたメッセージ性を持つ作品なので、伝わる人にだけ伝わるような作りにしていないのは道理だと思います*1

 特に最終回の構成は、これ自体が1つの映像作品として問いと答えをセットで提示しているので見通しが良かったです。選ばれた子供と選ばれなかった子供が分かたれていて、テロリズム的な手段に訴える者がいて、という状況を見せた上で、クライマックスで「運命の果実を一緒に食べよう」という言葉を示す。とても浅いレベルではありますが、作品理解の第一歩として「なるほどこれはこういう話だったんだな」という確信がまずは得られたし、どこまで掘り下げても結果的にはこの一言に戻ってくるんだろうなという気がしています。

 話の核心がスッと伝わることと、どこまで掘り下げて読み込める作りになっているかはぜんぜん別の話なので、そういう意味では分かりやすいどころかとことん底なし沼な作品だと思います。一回観ただけだとなんも理解できてないな、というのが正直な気持ち。後ろで終始ペチペチやってるペンギンとか画面に映り込むあれこれが意味のカタマリだと思うんですが、なんか賑やかで楽しい映像だな、くらいのことしか受け取れてない。引用された実在のテロ事件を同時代的なざっくりしたシンボルとして見るべきなのか、もっと具体的な固有の出来事として掘り下げて見るべきなのかもよく分かっていません。こういうところはもう本作に10年付き合ってる先輩方に教えを乞うしかないですね。とはいえ、作品を読み込むことで最初に提示された核心が掘り下げられこそすれ、裏切られることはない作品だと理解しているので、そこは素直に観ていいのだろうなと思っています。

*1:この方向をもっと突き詰めてシェイプアップしたのが『さらざんまい』なんだろうなという印象もありますね。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』第7ゲーム 死刑囚:土麗美/ピエロ:水無

第7ゲーム

  • 死刑囚:土麗美
  • ピエロ:水無
  • 断罪者:風華、火凛

「ピエロに配置された水無を犠牲にする以外に自分が生き残る方法はない」と悟った土麗美が「詰んだ」と判断し、そうなるよりはと自己犠牲を進言。なんか話がまとまりそうになるものの、水無に嫌悪を抱く火凛が案の定土麗美への「無罪」を宣告して死刑囚を水無に変更。火凛が主導権を握った状態ですったもんだ、水無が土麗美を嫌っていることが暴露されたりしつつも土麗美の決意は揺るがず、根負けした火凛が水無に「無罪」を宣告して元の配置に。土麗美に拷問刑を執行して全員の鎖が外れるも、もたつく水無の隙を突いて火凛が再度「無罪」を宣告。土麗美の死体と入れ替わる形で水無が再び拷問台に拘束され、火凛と風華だけが脱出という結末。

 相変わらず土麗美のムーブが強いですね。水無すら謀殺した前回とは打って変わって、今回は水無のための自己犠牲を完遂します。水無に対する態度の揺らぎは理解しがたいものの、「水無を救える可能性があるなら自分の命も投げ出す」「どうせ全滅するくらいなら自ら水無に手をかけてでも生存数を増やす」が両立するような極端な人間性なのかもしれません(そう?)。

 火凛が水無を憎むようになった切っ掛けはレイヤーズセブンのマジカルステッキ絡みだという、以前ちらっと触れられた話題が再び出てきましたけど、まだ核心はよくわかりませんね。この件については今のところ空くんの名前が出てきませんけど、何かしら絡んでくるんでしょうか。

 今回は日常エピソードのボリュームが大きめでした。プロローグの土麗美エア牛丼催眠エピソードが乗っけからあまりにも酷くて、あの、声優さんに何させてんですか? いくら何でもそんなに頑張らなくても……。

 あと新しい要素としては、このところプロローグと本編の間に4人の誰かによる短い独白が入るようになってきましたね。どうも男性(空くん?)に向かって、「女の子に夢を見てるみたいだけど、その内面なんてこんなものだよ」的な話をしてるっぽい。別のタイミングでは檻の中の少年らしき人物が「もうこんなの見たくない」「あんなに優しい女の子たちがどうして……」みたいなことを呻くシーンも挿入されはじめていて、こちらは記憶を継承して何度もこのゲロカスゲームを見せられているような物言い。なんか超常的なギミックが絡んでるのか、メタ的な仕掛けなのか……。

 プレリリース的な文章にも書いてあったので割と覚悟はしてたんですが、やっぱり「男の子には想像もつかない女の子の本性」みたいなのがコンセプトなんですね。「男子と違って女子は嫌いな相手とでも笑いながら付き合えるんだよ」的な話を檻の中の少年に延々と見せつけ、女子に幻想を抱いていた少年が煩悶する構図をやりたいみたいです。まさしく竜騎士さんの趣味という感じはするんですが、ステレオタイプな性差をかなり強めに追認するようなメッセージになってるので、2020年のゲームとしては正直かなり厳しい。一人一人のキャラクターはしっかり掘り下げてるのに総論になると変なメッセージでまとめて来てげんなりするの、これも竜騎士さんの手癖といえば手癖なので懐かしさはあります。こういう古傷の疼く懐かしさにまで再会したかったわけではないんですが……(覚悟はしていた)。

『幻想牢獄のカレイドスコープ』第6ゲーム 死刑囚:風華/ピエロ:水無

第6ゲーム

  • 死刑囚:風華
  • ピエロ:水無
  • 断罪者:土麗美、火凛

 今回はかなりトリッキー。断罪者の土麗美が風華の処刑に舵を切ることは予想通り、もう一人の断罪者である火凛が抵抗を示したことで膠着状態に陥るのも過去にあったパターンですが、それによる全滅回避のため土麗美が拷問台と鎖のギミックを利用して火凛と水無を謀殺する、という驚きの展開になりました。火凛と水無の死体を使って拘束からの解放条件を満たすもぎりぎり間に合わずタイムアップ、結果的に土麗美と風華も炎に巻かれておそらく死亡というとほほな結末。

 土麗美、今回は特に水無から裏切られたわけでもなかったと思うのですが、思いっきり自分から殺しにいきましたね……。かと思えば、一番殺したかったはずの風華を(一人でギミックをクリアするには時間が足りなかったとはいえ)一応助けてたりして、やはり番狂わせを仕掛けてきがちなキャラに見えます。敵対状態にない友人2人をデスゲームのルールにすらない方法で極めて積極的に殺害する……という今までで一番エグい展開だったと思うんですが、結局逃げ遅れて風華と2人笑い合いながら死んでいく光景は妙にエモーショナルでした。ゲロカス一辺倒にせずこういう緩急をつけてくる話の作り方は良いと思います。

 今回は土麗美が風華を嫌うようになった過去エピソード周りで空くんの情報がありました。風華が落ち込んでたのは空くんが火凛に恋心を抱いてた絡みだと思いますが、その相談に乗ったせいで土麗美は空くんからのお別れのプレゼントを受け取れず雨でダメにした、みたいな話。何ゲーム目かでは土麗美の家に仕事の段ボールが積み上がってたみたいな情報もあったので、どういう家庭環境なのかちょっと気になります(内職?)。雨というキーワードは水無が土麗美に不信感を抱いた切っ掛けにも絡んでた気がするので、空くんの存在が巡り巡って皆の不仲の原因に……という構図になってきそう。

 ところで、プロローグの構成はカードの選び方とセットではなく独立してるんですかね? 4ゲーム目までは死刑囚カードを配ったメンバーに焦点の当たるプロローグだったんですが、5ゲーム目以降はより集団的なエピソードが描かれるようになった気がします。あと、今回はプロローグと本編の間に「女の子の友情なんて」的な火凛の短い独白が入ってたりして、どうも周回によって解放されるシーンがところどころ挿入されるようになってきてるぽいですね。

『皆勤の徒』

 なんかSFらしいSFが読みたいな〜という気持ちになり、そういえばまだ読んでなかった酉島さんに挑戦。

 期待通りいかにも難解で、奇想の風景に浸れる小説でした。SF的にはお馴染みのネタを、和語とも漢語ともつかない独特の造語表現で異化していく趣向。それに加えて、「卑近で現代的な過重労働哀歌」「学生の友情と別れの物語」「ハードボイルドな探偵もの」「大陸風の徒弟にまつわる冒険もの」といった各話ごとに異なるモチーフを据えることで、連作短編としてもう一段階の面白味を足している……といった仕掛けは分かるんですが、SFネタに対する私の理解がそもそも怪しいのがネック。だいたい雰囲気で読めましたが、作品全体を貫く統一設定を把握するところまではいけませんでしたね……(大森望さんの解説がこれほどありがたいと思ったことはないかも)。

 そんななのでたいそう体力を使い、理解度もかなりあやふやな読書になりましたが、難解すぎて読む手が止まったり、退屈したりということは不思議とありませんでした。そんな読み方でも最後まで辿り着くことはできるし、理解が後から追いついてくることもある。雰囲気でなんとなく読んでも楽しい、というポイントは、この手の小説では特に強みなのかもしれません。

メギド72「トーア公御前試合」

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 めちゃくちゃ面白かったですね! 安定して面白い今年のイベントシナリオの中でも、さらに頭ひとつ抜けた完成度(ボジョレーではない)。微妙に五輪ネタを匂わせてるのもあって、「もしかして1年寝かせてちょこちょこ直してたのでは?」と思うくらい、細部までよく練られていたと思います。実際に描写されたのは一部の試合だけとはいえ、ちゃんとトーナメントものとして意味のあるシナリオだったのもよかったです。

 バロールの個、ボティスの変化をしっかり見せつつも、それぞれと絡めて元トーア公アイゼン、無敗の騎士マケルーというモブをこちらが主役かと思うような力の入れようで描いてくれたのが嬉しかったですね(アイゼンなんか専用登場曲みたいなのまでついてた)。トーナメントにかこつけてお祭り的に多数の既存キャラが登場したこともあって、全体的にモブヴィータの印象が強く残るシナリオでした。絶対的な強さの違いでメギドばかり勝ち残ったのは仕方ないとはいえ、基本的にはあくまでヴィータの大会で、トーア公まわりのあれこれもヴィータの問題、というところで、話のつくりとしてもモブの印象を強くしていくのは正しかったと思います。辺境に旅立ったアイゼンとマケルーの一行、ペルペトゥム含めどこにフラッと現れてもピンチ駆けつけ要因になったと思うので、次の見せ場が今から楽しみです。

メギド72「虚無のメギドと儚い望み」

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 あ! メギドのイベントだ! っていう、ここでしか得られない味わい。好きなシナリオでした。

 一見イケイケの武闘派に見えるブリフォーにメギドの中でも稀有な「個がない」性質が与えられてるの、良いですね……。単純に内在的な衝動がないというわけでもなくて、だからこそああやって燻ってるんだと思いますけど、メギドの「個」としてそれを発露する手段がどうやってもない。だから他人の願いに執着するわけだけど、願いそのものに共感しているわけではないから解釈がどこか歪で、時に願った本人の意向すら飛び越えて暴走する。ラストの一悶着はメギドラルの陰謀どころかブリフォー含め誰の利益にもならない戦いで、だからこそ彼女の純度の高いメギド性が見えた感じがします。

 これはたまたまかもしれないけど、今回ブリフォーが叶えようとした願いの持ち主が2人とも子供だったのもうまく効いてましたよね。他愛ない子供のイタズラを頭から軽んじるでもなく、かといって一緒になって熱狂するわけでもなく、あくまで大人の態度で仕事に取り組むようにそつなく真面目に協力する、っていう距離感がどこかミスマッチな感じで面白かったです。最終的にはソロモンを親分とすることに決めたみたいだし、ソロモンからのより上位の命令があるのでイタズラの手伝いをすることはもうなさそうだけど、インプとの不思議な親分-子分関係も引き続きやってってくれると嬉しいです。

 インプの方はですねー、コミカルなキャラクター性の一方で生者に対する強烈なわだかまりがに匂わされていて、どんな爆弾になるのかと正直恐々としていたんですが、結果的にはある程度解消される方向に向かったので安心9割、さらに突っ込んだ展開が見たかった気持ちが1割といったところです。8章2節でフォルネウスの祭壇に触れたインプが「みんな死んじゃえ」と漏らすシーンは今回のイベントを踏まえた仕込みだったのかなと思いますが、時系列的には今回より後の出来事なので、これで何もかもスッキリ解消したというわけでもなくまだ掘り下げの余地もありそう。魂やら何やらインプの絡めそう話題もまだ残っているので、本編での登場にもワンチャン期待したいですね。