『チンギス紀 四』

「殿は何を目指しているのか」的な話がいっそう増えてきましたね。テムジン視点のシーンもないではないけど、彼は基本的に内面のはかり知れない一種の超人のような描かれ方をしています。圧倒されながらも追い縋ろうとする周囲の人々の描写によってテムジンの人物像が浮かび上がってくる感じで、描き方としては楊令に近い主人公ですね。

 水滸伝は圧政への抵抗! 志! というところが非常に明快でしたし、前作の岳飛も迷いや信念をあれこれ吐露してくれる人間味があって分かりやすい人物でした。それと比べると楊令はかなり超越的で、「何か常人には見えない大きなものが見えている」キャラクターでしたが、国家の枠を超えた営みを樹立しようとしていたという大筋自体は単純なので、これもまあ分かりやすい話ではあります。

 じゃあテムジンはと言うと、後世の人間からすれば彼がモンゴル族遊牧民の統一を超えてもっと果てしない覇業を成し遂げることは当然知ってるんですが、これまでの世直しや時代の開拓といった理想と比べるとかなり異質で、もうはっきりとめちゃくちゃ血生臭い所業に繋がっていくわけじゃないですか。「真の男の見果てぬ夢」とかで美化するにはあまりにも殺戮の度合いがえげつなすぎるし、テムジン自身も自分が何に衝き動かされているのかよく分かっていない。単純な野心や向上心が核には見えないし、民や志のためでもない。今のところ本人の望みというよりは宿命的な業との間で葛藤しているように見えるんですが、たまにそこんとこに触れても「何やろこれ、天? 天かぁ……」みたいな曖昧なことを言っている。怖い。かなり怖いです。こっからどう持っていくんでしょうね……。

『チンギス紀 三 虹暈』

 げ、玄翁! 露骨に幻王ですね。ここまでかなりストイックな話運びだったのに、いきなり最強オリキャラ投入という飛び道具で流れがぶった切られて「ヒェ〜〜」言うてました。梁山泊の作った経済の道もやっぱり全然生きてるみたいだし、こっから先も便利使いされそうですね……。ギアが上がってきた!

 現時点でテムジンは極めて"格"の高いキャラクターですが、この先も主人公をやらせるならさらなる壁越えが必要。でも現状では"格"でテムジンを凌駕するような強敵がいない……じゃあシリーズで錬成した最強オリキャラ血統をぶつけたれ! というのは道理であって、むしろこの繋がりこそが新シリーズの構想のキモだったのかなとは思います(テムジンの出生が怪しいみたいな話もあるし……)。一応歴史ベースの小説にとってとんでもない異物だと思うんですが、何の衒いもなくあまりにも堂々と立ちはだかってくるこの感じ、流石……。流石?

 あと前回散々言ったラシャーンの本人視点のパートが出てきましたね。ま、まとも! 夫のタルグタイ視点の時のムチャクチャな振る舞いは何だったのかと思うようなしっかりした人格で、先行きが見えてるし自我もある。少なくとも書き割りの「女戦士キャラ」って感じではなかったですね。逆にこんなしっかりした人間が男視点のフィルタを通して見ると前巻みたいな描写になってしまうの本当に何なの? というところで逆に凄味を感じるというか……。北方さんは徹底的に男性視点の作家で、そこはもう意識的にそうされてるんだと思うんですけど、作家として並外れてるので結局その視野の裏側のところまで「見えてしまってる」んだなと感じることが、あまあまあります(あと玄翁との長尺の会話だったので、相対する側も否応なく人間的な描写が引き出されるところがあったかもしれません)。

 そんでタイチウトの二人ですが、トドエン・ギルテが死んでタルグタイが泣いちゃうのめっちゃ良かったですね。ライバルと嘯きつつともに傷を舐め合う仲だったトドエン・ギルテが勝手に雄々しく死んでしまって一人残された死に損ない感。勢力は大きくなって鷹揚になったようにも見えるけど、家帳に帰るとその立役者のラシャーンを蹴っ飛ばしてる有様。北方世界観的に「腕を斬り落とされる」は古い自分を捨てるターニングポイントだと思うんですけど、ここからどうなることやら……。







 

『チンギス紀 二 鳴動』

 テムジンが「真の男」なのはもうそういうもんなので「了解!」なんですが、脇役の枠を埋める「真の男」になりきれない半端者たちの割り切れなさが面白い。これが北方謙三さんの楽しみ方だと思っていて、今回はタイチウト氏の長二人がいい感じですね。普通の基準なら十分に豪傑の類だと思うんですけど、テムジンやジャムカを前にして格の低さを認めざるを得ない。その屈託、劣等感の中に通じ合うものが生まれてしまい、相手が疎ましいはずなのにお互いに傷を舐め合ってしまう微妙な距離感……いいですね。こういうのが読みたくてシリーズについて行ってるところあります。

 男性描写の解像度に対して女性がなおざりだな、みたいに昔は思ってたんですが、これも徐々に見え方が変わってきました。男を動機づけし肯定してくれる背景化した女性が目立つ、まあそういう面はあります。とにかくまず男があって、男にとってどういう存在かという観点で女が描かれる。これはもう本当にその通りなんですが、内助の功的な「理想の女性」とは別に「男にとってメチャクチャ都合の悪い女」がゴリッと話に捩じ込まれてくるのが面白いところです。別に独立した人格が尊重されているという感じでもなくて、ただただ「女、ままならねえ」的な異物としての描写かもしれませんが……。

 今回も「女は本当に仕方ねえ、道理は通らんし癇癪で人を振り回しやがる(しかしメチャクチャ色気はある)」みたいなイメージがそのまんま出てきて「は??」だったんですが、いやそれにしても自分の中の屈託や執着、その裏の隠しようもない下心なんかをこんなそのまま描いてくるの凄いな……ってなるし、北方さんの作家としての力が強すぎてこういうのでも単なる「絵に描いたようなおもんないキャラ」にはどうしてもならないんですね。本人の思想信条を超えた洞察が、真実が筆に滲み出てしまう、すごい作家さんだと思います。なんか悪口みたいになってしまいましたね。悪口かどうかというと、まあこれは悪口なんですが……。

『チンギス紀 一 火眼』

今年の目標:チンギス紀読んで感想書く


 今回も文庫版全17巻毎月連続刊行ですって。すごいですね。

 北方謙三さんは水滸伝シリーズしか読んだことないので「ほぼ未読みたいなもんですね〜ワハハ」という態度を押し通していたんですが、シリーズも50巻を超えてこの言い訳もだいぶ苦しくなってきました。ただの北方謙三読者です。

 水滸伝〜楊令伝〜岳飛伝と連続したお話でしたが、一気に年代ジャンプして舞台や人物もリセット。シリーズの縁者らしき人もいるっちゃいますが、ほぼ新作として読める内容です。

 今回も群像劇ではあるんですが、複雑な人間関係はいったん真っさらですし、基本的に遊牧民のお話なので込み入った政治劇という方向にはなりません。主役も明確にテムジン一人なので、そこに凝縮された「真の男!」性が凄まじい。話が単純になった分、何かが純化されて基本スタイルに立ち返った感じがします。原液すぎてちょっと胃もたれしそうですが……。

絶対続編出てほしい(のでみんな買ってほしい)、『パラノマサイト FILE23 本所七不思議』

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 ホラーとミステリをいい具合に配分した推理ADV。今年のGWのメインにと前々から楽しみにしていたゲームですが、たいへん面白かったです! 伝統的な推理サウンドノベルの仕組みを踏まえた作りだと思いますが、プレイヤーの理解度とシナリオ展開を程よくリンクさせて気持ちよく読み進められるような工夫が随所に凝らされていて、この分野の洗練を感じました。

 なるべく予備知識なく遊ぶのが面白いタイプのゲームだと思うのでお話的なところにはあまり触れません*1が、情報開示のスピードがとにかく小気味良かったです。察しのいいプレイヤーが「こういうことかな?」と仮説を組み立てたくらいの段階で早くも「正解!」と答え合わせをしてくれて、すぐさま新たな謎も提示して話を引っ張ってくれる、絶妙のテンポ感でした。「え? もうそこまで話し進めちゃうの?」と驚く場面も多々ありましたが、既に察しのついてるような話を引っ張るよりもドンドン進めてくれた方がありがたいというのもそれはそう。この展開の速さ、出し惜しみのなさは本作の大きな魅力でした。

 システム的には推理ゲームなので要所要所でプレイヤーに推理を求めてくるんですが、ヒントを分かりやすく提示してくれるので後戻りして一生懸命答えを探して回る必要は少なく、大抵は「ここまでの話、ついて来れてるよね?」とプレイヤーの理解度を確認するような出題になっていました。そんなチェックポイントを随所に置くことで、作品全体のスピード感を落とすことなく、話に置いてかれそうなプレイヤーにも考える時間を与えてくれる、いい按配の調整になっていると感じました。

 あんまり値段見てやりたいゲーム決めることは少ないんですが、それにしてもこの内容で2000円弱っていうのは驚きの値段設定ですね。たしかにボイスなし、止め絵中心の演出などコストを抑えた作りになっているのですが、そういうところも作品の長所であるテンポ感に貢献しているので物足りなさは感じません。ボリューム的にも大長編というわけではありませんが、限られた分量の中でかなり密度の高い体験が得られたので、非常に満足感がありました。本作はシリーズ化を想定した採算度外視の第一弾らしく、次が本番という構想もあるらしいので、ぜひ流行ってもらって次回に繋げていただきたいです。

*1:最近全編の動画配信が解禁になったようなので、Twitterとかでも具体的なネタバレトークが増えてきたりするのかもしれませんね。

狭間の地の記録12 - 王都攻略後

二本指様止まっちゃった……

 モーゴットと戦った部屋の奥には黄金樹へと向かう扉があったのですが、扉を封じる黄金樹の棘に拒絶されたとかで侵入は叶わず。メリナに「黄金樹を焼こう」と諭され、北の大地にあるという巨人の火を手に入れることに。久々の新フィールドですかね?

 とりあえず円卓に帰還したら、今までウゴウゴ蠢いめいていた二本指様がピタリ止まり、オババ様も狼狽気味。「黄金樹を焼くのは禁忌だが……二本指様も何も言わなくなったし状況変わったからワンチャンセーフかも?」とすごい理屈で背中を押されました。ありがたいですが、そういうのでいいんだ……。

 以前追い返された見えない壁が消えていたので、王都東の大昇降機から雪の降り積もる「禁域」とやらへ移動。いったいどんな恐ろしい敵が襲ってくるのか? と身構えてたら卑兵がペチペチ殴ってきたので、「卑兵かぁ……」となりつつ北上。薄暗く見通しの悪いマップですが、敵は大したことないので特に苦戦はしませんでした。道中、たまたま夜だったらしく夜の騎士が出ましたが、自分から勝手に地形ハメのポジションに移動していってくれたのでビームと弓矢で美味しくいただきました(自ら調べてチート使ったりはしないけど、こういう偶然の恩恵にはありがたく預かっていきます)。

 目標地点の手前で黒き剣の眷属が襲ってきて冷や汗かきましたが、例によってスルーできるタイプの格上ボスっぽかったので逃げました。そのままロルドの大昇降機に乗り込み、巨人たちの山嶺に進入。禁域とは一転して、明るく美しい開けた雪景色が広がっています。動物たちが駆け回ってますか、なぜか透明になっていて攻撃が当たりません。どういうこと?

 以前アルター高原で最期を見とった狩人ユラみたいな人が変なポーズで突っ立っていて、あれ? と思ったらユラの身体を乗っ取ったシャブリリだと自己紹介されました。シャブリリってシャブリリのブドウのあの人ですよね?(ヤベー奴じゃん)  お前は自分の野望のために娘(たぶんメリナのこと)を犠牲にしようとしている。娘を贄に捧げるのでなく己の身を焼け! 王都の地下に向かって三本指の混沌を世に齎すのだ! とかよく分からない説教をされました。前半はともかく後半の内容は支離滅裂でコワ〜ですが、発狂しながら目からビーム撃ちまくってる身としては他人事ではないのかもしれません……。

狭間の地の記録11 - 火山館到着、王都後半攻略

アルター高原から火山館へ

 アルター高原の探索がかなり中途半端になっていたので、戻ってきてもう一回りしてみました。やはりいろいろ見落としてて、雷羊師匠のローリングサンダーをゲットしたり黒き刃の刺客をしばいたり狩人ユラの最期を看取って血に狂った狩人エレオノーラを仇討ちしたり。血に狂った系のボスってハイト砦とか各種侵入イベントとかでちょろちょろ見かけますけど、ギデオンが言ってた名前の分からないデミゴッドと関連ありそうな感じですね。

 アルター高原を進むうちにゲルミア火山方面に近づいてきたので、あまり深入りしてこなかったこの地域にも改めて取り組むことにします。未攻略だったライード砦をクリアし、熊(めちゃくちゃデカい)や乙女人形(ホイールをハーレーみたいに突き出して荒れ地をギュンギュン暴走しながら羊や亜人や褪せ人を轢き殺しまくるバカのマシン)に追いかけられたりしながら賢者の村なるチェックポイントに到着。

 住人は亜人に皆殺しにされたっぽく、亜人の女王マギとやらが陣取っていたので2、3回死にながらやっつけました。この亜人、なぜかレアルカリア系のお面魔術師とつるんでて、広場で説法を受けてたりしたのが気になりました。何らかの物語がある……。

 ゴドリックの縁者らしい接ぎ木の某がうろついてたので撃退し、なんかの戦闘があったらしく同胞の死を悼んで泣いてる兵士の一団を背後から襲って皆殺しに(心が痛むんですが???)。降る星の成獣から逃げたり爛れた霊樹をヒーヒー言いながら倒したりしつつ、どうにか 火山館にたどり着くことができました。

 城主? のタニス様? に黄金樹への反逆チームに入らんかと誘われましたが、うちの褪せ人氏は敬虔な二本指の信徒なのでとりあえずお断りしました。この火山館、いわゆるレガシーダンジョンの一つなのかな〜と思ってたんですが、ほとんどの扉が閉まっているので今のところ探索はできそうにありません。その辺うずくまってる霊体に「ライカード様を殺してくれ〜〜」って懇願されてライカード身内に嫌われすぎでしょ……と思いましたが、他に行くところもあるのでちょっと様子見ですね……。

本格的に王都攻略

 そろそろメインを進めたくなり、王都へと戻ってきました。前回はローデイル騎士に負けまくって露台あたりで止まってましたが、体力とスタミナを鍛えたおかげか今回はほぼ安定して勝てるようになっていました(たまに油断して死ぬ)。

 気持ちに余裕ができると探索もしやすくなり、以前は目に入らなかった上層へのルートもあっさり見つけられました(地を這いずるように逃げ回ってたので竜の死骸に登る発想に至らなかった)。「金仮面が止まってしまった!」と嘆くコリン先生(動いてるとこ見たことないんですが?)と記念写真撮ったり、円卓と部屋割りがそっくりな建物を見つけて「どういうこと?」(狂い舌アルベリッヒの死体とかあった)と驚いたりしながらも探索はさくさく進み、ボス部屋に到着しました。

 現れたのは最初の王ゴッドフレイの金ピカに光る幻影。斧を振り回す巨大人型タイプで強敵感ありますが、ルーテルにターゲットとってもらいつつ背後から翼の鎌を振るう感じで押し切り、5回くらいのトライで勝利することができました。天使の翼、相変わらず強い……。

 その先は大した分岐もなく、遂に王都最深部へ。モーゴットどんな姿なのかなと思ったら、どう見てもマルギットですやん……。これ、マルギットご本人? 忌み鬼という概念があるみたいなので、その括りなだけかもしれませんが、褪せ人をやたら敵視してくるし同じような武器とモーションなので、よく分かんないけど他人とも思えませんね。王都外廊で遭った忌み人も人の身体を乗っ取ってた様子なので、他で遭ったのは憑依体でこっちが本体だったりするのかしら。

 モーゴット戦ですが、これまで散々マルギットで苦戦させられたこともあり、2回目のトライでなんかあっさり勝ててしまいました。応援に来てくれるメリナが強くて最後まで生き残るし、後半で遺灰からルーテルも呼んで3対1の構図に持っていけたので、1対1を強いられた外廊での戦いよりよほど楽でしたね……。