2009-11-01から1ヶ月間の記事一覧

『老人と海』

人間賛歌。であると同時に、人間の尊い努力の跡は、ほとんど誰にも気づかれることなく過ぎ去ってしまうという話でもあるのだと思います。ただし、数は少ないながら彼の戦いを知る人も確かにいて、そういう人の心の中にはしっかりと残されるものがあるのでし…

『イメイザーの美術』

これはいのちの美術。無垢なるたましいの魔術。 作中の言葉の引用。変に粗筋とかを書くよりも、この言葉が最も適切に作品のイメージを表してるように思います。 基本的には子供のいる世界の不思議を柔らかな筆致で描きつつ、ライトノベル風味の設定をふりか…

ピンボールの他には何もない世界 - とよ田みのる『FLIP-FLAP』

テーマはピンボール。ほとんどの読者がさっぱり知らないであろうマイナーゲームを主題としつつ、読み終わる頃には「そのゲームがやりたい」という気持ちにまで持って行ってくれる漫画です。それだけでも、本作の表現力は相当なものなのだと思います。 目的な…

『ジャイアントロボ 地球の燃え尽きる日(2)』

あの中条長官が素で「こうなるなら大作少年の命だけでも…奪えれば良かったものを〜〜!」とか言っちゃうジャイアントロボ第二巻。「地球の制止する日」と異なり国際警察陣営も悪い顔の人ばっかりで、元々の敵であるBF団に国際警察を加えて挟み撃ちにされちゃ…

『マーダーゲーム』

人狼ゲームをモチーフとした推理小説。ゲームルールは大幅に再構成されていて、占い師や狩人といった特殊ジョブがないぶんロジックはシンプル。ただし現実の小学校を舞台にした長期ゲームになっており、各メンバーのアリバイ等が問題になってきたりもするの…

『ジャイアントロボ(1)』

じ、自分が何を読んだのか理解できない……。 そもそも今川版ジャイアントロボ自体、横山光輝さんの数多くの作品をごった煮にした編集的キメラ創作物だったわけです。このコミカライズは、その今川版をさらにかき混ぜて善悪ひっくり返したような内容。もの凄い…

『レクイエム 私立探偵・桐山真紀子』

26人が死亡した幼稚園バス爆破事件、という強烈な要素を中心に据えた作品。一見派手な惹句ではありますが、爆破事件の惨状そのものよりも、事件後の遺族に多くの描写を割いた作品です。 あまり遺族一人一人の内面に踏み込むような描き方はされておらず、探偵…

うみねこは巧いか下手か/竜騎士07は天才ではない

軽く。*1 うみねこは巧いか下手か http://d.hatena.ne.jp/kaien/20091107/p1 この記事で海燕さんが使っている「下手」という言葉は、細部を削って大筋を捉えれば「過去に蓄積されてきた既存の手法に従っていない」ことを指すのだと思います。脚本術のメソッ…

情景は時にテーマに勝る - 高橋しん『きみのカケラ』

5/9 5巻で完結だと勝手に思い込んでたら普通に続いてた……。7巻までは既刊で、完結は9巻の予定とのこと。既にいつ終わってもおかしくないような「おしまい」の雰囲気が漂ってるんですが、意外と長いこと続くんですねえ。 テーマ<情景 やっぱり、たしかな筆圧…

『スカイ・イクリプス』

『スカイ・クロラ』シリーズ外伝。「キルドレでない人物の視点」をも交えて語られる、外伝ならではの異質な短編集。 と言いつつ、実はあまり異質すぎる感じがしなかったのが面白いところ。本作の不思議な空気感は"永遠の子供"であるキルドレの精神形態による…

『鉄球王エミリー 鉄球姫エミリー第五幕』

友桐夏さん以来、実に数年ぶりに「この人の作品は追いかけよう」と思うことのできたライトノベル新人作家さん。そのデビュー作シリーズの、見事な完結編でありました。 1 ライトノベルの戦記ものはなかなか数が少なくて、たとえ戦争が起きても「メインキャラ…

大甲冑というシステム - 『戦場のエミリー 鉄球姫エミリー第四幕』八薙玉造

重量級ライトノベル 「軽い小説をライトノベルと呼ぶ」という認識の当てはまらない作品が、時々あります。本シリーズはまさにそれ。「重量級ライトノベル」の名にふさわしい作品です。 今巻の大筋としてのシナリオ展開は、大きな意志決定(による行動選択)が…