森博嗣

『スカイ・イクリプス』

『スカイ・クロラ』シリーズ外伝。「キルドレでない人物の視点」をも交えて語られる、外伝ならではの異質な短編集。 と言いつつ、実はあまり異質すぎる感じがしなかったのが面白いところ。本作の不思議な空気感は"永遠の子供"であるキルドレの精神形態による…

『クレィドゥ・ザ・スカイ』

これまでの巻にも増して、茫洋とした感覚に包まれた一冊。主人公は自分が誰だか分かっていないし、現実の中に幻を目撃するし、なによりまともな記憶を持っていません。そして、繊細な筆致と意図された情報制御によって、読者もまた主人公に近い意識状態にシ…

森博嗣Gシリーズはとても「濃い」/あと『θは遊んでくれたよ』の感想

まだ二冊目までしか読んでませんけど、このシリーズ、すごく「濃い」と思うんですよ。 森博嗣さん的な意味で。どういうことかというと、このシリーズはスカイ・クロラシリーズ並みに「森さんのやりたいこと」が全面に押し出された作品だと思うのです。 この…

ストーリーは忘却され、印象だけが残る - 森博嗣『フラッタ・リンツ・ライフ』

Flutter into life。リンツて。このカタカナ表記だけでごはん一杯はいけます。じっと見てるとゲシュタルト崩壊起こしそうなタイトルですね! よく考えたらとてもエンターテイメントなんて呼べない筋書きですけど、それをエンターテイメントを読む時と同じ感…

『φは壊れたね』

壊れたねって「壊れ種」で、φという字は種がまっぷたつに割れていることを示してるんだろうなーとずっと思ってたんですけれど全然そんなことはありませんでした新シリーズ第一作。 森さんの今回のテーマは洗練なのでしょうか。薄味になったとは思わないんで…

『ダウン・ツ・ヘヴン』

戦闘機の乗る子供のお話。シリーズ第三巻。 主人公を理解しようとすること、それ自体が野暮なのかもしれません。少なくとも彼自身はそれを全く望んでいませんし、そうされることを拒絶してさえいるようです。ましてや、一方的に理解したような気になることは…

『アイソパラメトリック』

幻だった写真短編集の文庫化。2001年に出版された時は本というよりお楽しみ箱という感じで、魅力は感じつつも値段の壁に阻まれて手を出せなかったのでした。今回の文庫化で五年越しの願いが叶い、やっと安心できる値段で入手できたという寸法。66枚(たぶん)…

『四季 冬』

完結。ぐぇーえええ。あーう、森さん読んでてよかったと思いました。遂に一大サーガとなってしまったこの作品ですけれど、真賀田四季という天才を描ききったのは本当にすごい事だと思います。なにせ作者である森さん自身、有能で万能な才人であるとはいえ、…

『四季 秋』

過去を描いていた『夏』から時間は一気に跳躍し、遂に「その後」が描かれます。お話の視点は四季さんから離れ、シリーズお馴染みのあの人たちへ。ああもう至福。これまでの森さんの集大成とすらいえる作品でしょう。あと一冊で終わってしまうのがとにかく残…

『四季 夏』

S&MシリーズとVシリーズの世界が、一人の天才を中心として怒涛の勢いで収束していく第二巻。Vシリーズは『赤緑黒白』で一応の終結を迎えたものだと思ってましたけど、これを読んでると本質はここからなのではという気すらしてきます。本当は伏線や登場人物の…

『四季 春』

天才・真賀田四季女史の物語を綴った『四季』シリーズ、その幼少の時代を描いた第一巻。ちなみに愛蔵版BOX。この一巻だけを見てとっても、当シリーズが傑作となることはもはや疑いえないように思えます。これまでに森さんが描いてきたS&MシリーズやVシリーズ…

『虚空の逆マトリクス』の森さんっぷり

たーんぺーんしゅー。感想は個別撃破で。ちゅどーんどーん。 「トロイの木馬」 序盤混乱、中盤ドキドキ、ラストはやっぱり森博嗣さん。落としどころを曖昧にして幻惑感を残すのも面白いですけれど、パズルが一気にパタパタはまるようなカタルシスもそろそろ…

『ナ・バ・テア』

オビにもある通り、このシリーズのテーマのひとつには間違いなく『孤独』という概念があると思います。森さんは他の作品でもことあるごとに『孤独』について語っているので、この概念について確固としたイメージがあることが窺えます。 本書の主人公も『孤独…

『大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル』

いつも通り。寸分たがわずお約束の森博嗣さんでした。基本的な主張は、これまでに発表された日記やエッセイと同じです。インタビュー形式なので、『臨機応答・変問自在』が最も近いと言えるでしょう。 森さんの考え方はどの作品でも恐ろしいほどに一貫してい…

『工学部・水柿助教授の日常―The Ordinary of Dr.Mizukaki』

日常というくらいなので殺人事件はおきません。鞄がなくなったとか、そのくらいの規模のミステリーがいくつも出てきます。タネがわかってあっと驚くというよりも、蓋を開けたら大したことではなくてなあんだと肩を落とすという方向性なので、こんなものはミ…