『大学の話をしましょうか 最高学府のデバイスとポテンシャル』

大学の話をしましょうか―最高学府のデバイスとポテンシャル (中公新書ラクレ)
いつも通り。寸分たがわずお約束の森博嗣さんでした。基本的な主張は、これまでに発表された日記やエッセイと同じです。インタビュー形式なので、『臨機応答・変問自在』が最も近いと言えるでしょう。
森さんの考え方はどの作品でも恐ろしいほどに一貫しています。お話にも筋が通っていて、根本的な信念が揺らぐことはありません。そういった態度には説得力がある反面、既にいくつかの日記・エッセイを読み込んでいる人は「またその話か」と思ってしまうかもしれないので、そういう意味で本書にあまり新鮮味はないかもしれません。
本書の主題は"大学"なので、大学についてのお話はかなり掘り下げられています。大学という機関に対して興味のある人なら、森さんの他のエッセイなんかを読み飽きていたとしても問題なく読める内容だと思います。大学の学問思想的な面での素晴らしさと、システム的な面での愚かさが二面性をもって語られているので、両者を区別して読まないと大学を誉めているのか非難しているのかちょっと混乱してしまうかもしれません。
本書から読み取れる森さんのいちばんの変化といえば、やっぱり自分のことを"小説家"と呼びはじめたことでしょう。その他、

お金に関してならば、大学にいる必要などまったくありませんでした。それでも、デビュー以来九年も大学に勤めていたのです。これはよほどのことだったのでしょう、自分でも感心しますね。

この下りなんて、明らかに大学を辞めたことをほのめかしているんですけど、森さんのことだから……と疑わずにはいられません。絶対にわざとだと思います。