『ダウン・ツ・ヘヴン』

ダウン・ツ・ヘヴン (中公文庫)

 戦闘機の乗る子供のお話。シリーズ第三巻。

 主人公を理解しようとすること、それ自体が野暮なのかもしれません。少なくとも彼自身はそれを全く望んでいませんし、そうされることを拒絶してさえいるようです。ましてや、一方的に理解したような気になることは、彼らに対する侮辱ですらあるのでしょう。

 大人と子供が常に対比されているこのシリーズですけれど、「大人に蹂躙される子供」というよくある構図をそのまま適応しては読み解けない作品でもあります。確かにこのシリーズの子供たちもまた、大人に翻弄される存在ではあります。ただし、彼らが大人たちに怒りを感じるポイントは、私たちがそうであろうと考えるポイントから外れているのです。

 パフォーマンスまがいの代理戦争に駆り出される子供たちは、善良な大人たちの感覚で言えば"可哀想な境遇"ということになるのでしょう。けれど当の彼らにとって、そういった種の感情移入は余計なお世話ということになります。彼らにとって重要なのは、それよりなにより戦闘機を取り上げられて"空を飛べなくなること"であって、そこのところの齟齬こそがこの作品で表現されている「大人と子供の違い」なのだと思います。