『マーダーゲーム』

マーダーゲーム (講談社ノベルス)

 人狼ゲームをモチーフとした推理小説。ゲームルールは大幅に再構成されていて、占い師や狩人といった特殊ジョブがないぶんロジックはシンプル。ただし現実の小学校を舞台にした長期ゲームになっており、各メンバーのアリバイ等が問題になってきたりもするので、複雑さとしてはトントンといったところでしょうか。

 この手のゲーム作品は物語が進むごとにどんどん登場人物が死んでいくので、お話として成立させるのが難しいーというところがあります。せっかく色々な登場人物の造型を練っても、その多くが大した見せ場も作らないまま退場してしまう……というのは、ちょっと勿体ないところ。ただ本作は「ゲームの中の死はゲームの中の死」という形で問題を根本的に回避していて、なるほどこういう流れも面白いなーと。

 本作をフーダニットとして考える時、まず最初にだいたい二通りの想像ができると思います。まっとうな方と、ひねった方。まっとうな方に色々な仕掛けが施されているのはまあ当然ですが、よく読んでみると、「ひねった方」でも密かにいろいろと仕掛けてきてくれているのが分かります。このあたり、本作は読者の推理傾向を多層的に想定しているようで、なかなか一筋縄にはいかない作品でありました。

 登場人物は小学生ですが、『恐るべき子供たち』とか『エンダーのゲーム』的な異常に有能な子供たち*1というわけではなく、あくまで等身大の子供の発想で推理を進めていく感じ。友達づきあいや家庭問題など生々しい話もあり、子供たちは神秘的でも無垢でもない現実的な存在として描写されています。このあたり、良い方にも悪い方にも非現実的な題材を扱うことの多いこのジャンルでは、逆に珍しいことなのかなーとも思いました。

*1:一名、ガイド役として非常に頭のいい子はいますが……。