『チンギス紀 二 鳴動』

 テムジンが「真の男」なのはもうそういうもんなので「了解!」なんですが、脇役の枠を埋める「真の男」になりきれない半端者たちの割り切れなさが面白い。これが北方謙三さんの楽しみ方だと思っていて、今回はタイチウト氏の長二人がいい感じですね。普通の基準なら十分に豪傑の類だと思うんですけど、テムジンやジャムカを前にして格の低さを認めざるを得ない。その屈託、劣等感の中に通じ合うものが生まれてしまい、相手が疎ましいはずなのにお互いに傷を舐め合ってしまう微妙な距離感……いいですね。こういうのが読みたくてシリーズについて行ってるところあります。

 男性描写の解像度に対して女性がなおざりだな、みたいに昔は思ってたんですが、これも徐々に見え方が変わってきました。男を動機づけし肯定してくれる背景化した女性が目立つ、まあそういう面はあります。とにかくまず男があって、男にとってどういう存在かという観点で女が描かれる。これはもう本当にその通りなんですが、内助の功的な「理想の女性」とは別に「男にとってメチャクチャ都合の悪い女」がゴリッと話に捩じ込まれてくるのが面白いところです。別に独立した人格が尊重されているという感じでもなくて、ただただ「女、ままならねえ」的な異物としての描写かもしれませんが……。

 今回も「女は本当に仕方ねえ、道理は通らんし癇癪で人を振り回しやがる(しかしメチャクチャ色気はある)」みたいなイメージがそのまんま出てきて「は??」だったんですが、いやそれにしても自分の中の屈託や執着、その裏の隠しようもない下心なんかをこんなそのまま描いてくるの凄いな……ってなるし、北方さんの作家としての力が強すぎてこういうのでも単なる「絵に描いたようなおもんないキャラ」にはどうしてもならないんですね。本人の思想信条を超えた洞察が、真実が筆に滲み出てしまう、すごい作家さんだと思います。なんか悪口みたいになってしまいましたね。悪口かどうかというと、まあこれは悪口なんですが……。