『チンギス紀 三 虹暈』

 げ、玄翁! 露骨に幻王ですね。ここまでかなりストイックな話運びだったのに、いきなり最強オリキャラ投入という飛び道具で流れがぶった切られて「ヒェ〜〜」言うてました。梁山泊の作った経済の道もやっぱり全然生きてるみたいだし、こっから先も便利使いされそうですね……。ギアが上がってきた!

 現時点でテムジンは極めて"格"の高いキャラクターですが、この先も主人公をやらせるならさらなる壁越えが必要。でも現状では"格"でテムジンを凌駕するような強敵がいない……じゃあシリーズで錬成した最強オリキャラ血統をぶつけたれ! というのは道理であって、むしろこの繋がりこそが新シリーズの構想のキモだったのかなとは思います(テムジンの出生が怪しいみたいな話もあるし……)。一応歴史ベースの小説にとってとんでもない異物だと思うんですが、何の衒いもなくあまりにも堂々と立ちはだかってくるこの感じ、流石……。流石?

 あと前回散々言ったラシャーンの本人視点のパートが出てきましたね。ま、まとも! 夫のタルグタイ視点の時のムチャクチャな振る舞いは何だったのかと思うようなしっかりした人格で、先行きが見えてるし自我もある。少なくとも書き割りの「女戦士キャラ」って感じではなかったですね。逆にこんなしっかりした人間が男視点のフィルタを通して見ると前巻みたいな描写になってしまうの本当に何なの? というところで逆に凄味を感じるというか……。北方さんは徹底的に男性視点の作家で、そこはもう意識的にそうされてるんだと思うんですけど、作家として並外れてるので結局その視野の裏側のところまで「見えてしまってる」んだなと感じることが、あまあまあります(あと玄翁との長尺の会話だったので、相対する側も否応なく人間的な描写が引き出されるところがあったかもしれません)。

 そんでタイチウトの二人ですが、トドエン・ギルテが死んでタルグタイが泣いちゃうのめっちゃ良かったですね。ライバルと嘯きつつともに傷を舐め合う仲だったトドエン・ギルテが勝手に雄々しく死んでしまって一人残された死に損ない感。勢力は大きくなって鷹揚になったようにも見えるけど、家帳に帰るとその立役者のラシャーンを蹴っ飛ばしてる有様。北方世界観的に「腕を斬り落とされる」は古い自分を捨てるターニングポイントだと思うんですけど、ここからどうなることやら……。