この令和の時代にうみねこの丁寧な新作が読めて本当に嬉しい - ひぐらし命うみねこコラボ「魔女の血ぬられた生誕祭」

ひぐらしのなく頃に命』(昨年から始まったひぐらしソーシャルゲーム)と『うみねこのなく頃に』、初のコラボイベント。ひぐらし命のシナリオは基本的に叶希一さんという過去CS版などで関わってたライターさんが担当しているんですが、今回は特別に原作者の竜騎士07さんその人が執筆すると発表され、ファンの間では結構な話題になりました。

 通例、ひぐらし命のイベントシナリオは十数分で読めてしまう短めの小話なんですが、今回は原作者権限で無理がきいたのか10万字という桁違いのボリュームがアナウンスされています。BGMも原作曲がそのまま10曲以上採用されているし、ここでしか使えないだろう新規書下ろしの背景イラストも多数*1、今までアプリ中で聞いたことのないSEも多数追加されてたりして、いろいろと破格の扱いです。正直、ひぐらし命のフォーマットでどこまでやれるんだろう……という心配もあったのですが、いざやってみたらOPで原作曲が流れた時点で脳みそが完全に「うみねこ」のモードになってしまいました。この令和にうみねこの完全新作が遊べるなんて……。

 初のコラボシナリオということでひぐらしうみねこ双方のメインキャラが勢揃いしてお祭りっぽくワチャワチャやるのかと思ったら意外とそんなこともなくて、しっかりキャラとテーマを絞った上で非常にまとまりのあるお話が展開されました。キャラクターのチョイスもなかなか見事で、主要キャラとしておおよそ以下の6名が選ばれています。

 うみねこ主人公の右代宮戦人すら出てこなかったのは驚きですが、「あのキャラに出て欲しかったのに」という不満の声はどうせ絶対上がるし、立ち絵1枚書くのにも予算はいるので、なんとなくメインキャラ総登場で散漫な話になるより良い内容になったんじゃないでしょうか。うみねこの「顔」であるベアトリーチェを登場させてシリーズ鉄板の推理ゲーム展開へと導きつつ、異様にアクの強い名脇役ポジションである古戸ヱリカをライバル的に配置してお話を引っ張っていく。間口の広いところも深いところもカバーして、うみねこ未読者をいい感じに作品の深部まで導いてくれる粋な陣取りだと思います。

 ひぐらし組も、ゲームオリジナルキャラの菜央ちゃんをシリーズお馴染みの園崎姉妹が賑やかにサポートしていく構成になっていて、「このシナリオを読むために初めてアプリをDLしました!」(かなり多い)という人が未知のオリキャラで誰コレとならない配慮を感じました。うみねこ未読、ひぐらし未読、さらにはひぐらしファンだけどゲームは未プレイという人まで含め、様々なプレイヤー層がいずれもお話に入っていきやすい絶妙なチョイスです。

 話の導入は分かりやすくてスピーディー。あくまでゲストとして執筆していることを弁えているのか、竜騎士さんの手癖である過度な露悪描写や説教じみた長話も今回は封印されていて、相変わらずクセはありつつも後味が悪いような話にはなっていません。本編のようにドカドカ人が死んでいく展開ではないのでライトはライトなのですが、単純に表層的な話に留まるわけでもなく、サブキャラがいい仕事してることもあって要所ではスッと深いところに切り込んでいく。ああ〜うみねこ読んでる〜という気分になります。

 竜騎士さんのテキストって結構冗長というか、勢い任せで話が前後したり表現が重複したりということが多いんですが*2、執筆期間やボリュームに制限があったからなのかゲームアプリとしてのチェック体制がしっかりしてるからなのか、今回はその辺も極めてシュッとしていました。正直、竜騎士さんのテキストとしては過去に例がないくらいまとまりの良いシナリオだったと思います……(もともとは叶さんが執筆を予定していたはずなので、その辺の名残もあるのかもしれませんね)。

具体的な内容の感想(ネタやオチに触れます)

 ここから具体的な内容の感想も書いていきたいんですが、生き生きしている最新の古戸ヱリカが見られて本当に良かった! 過去の私の日記や発言を掘り返すと色々出てくるんですが、私はこの古戸ヱリカというキャラが好きというか、執着が強すぎて憎しみすらあり、むしろ嫌い、この古戸ヱリカというキャラ最悪だなと事あるごとに思っており、ともかくその古戸ヱリカが今回は主要キャラ級の活躍をします。主人公はひぐらしサイドの菜央ちゃんですが、彼女の視点を通して古戸ヱリカという探偵の人となりに触れていくシナリオといって過言ではありません。

 うみねこ本編中の古戸ヱリカは物語の要請によって悪役として悪役の振る舞いをするザ・悪役、最悪中の最悪なクソ探偵だったのですが、今回のコラボシナリオでの彼女はそういう役割から解放され、主人のお使いを理由に半分行楽気分で六軒島にやってきた通りすがりの変人探偵という立ち位置になっています。物語の要請と主命による「悪役」の制約から解き放たれた古戸ヱリカがどうなったかというと、主命の代わりに個人的な趣味で悪役を気取る異様に性格の悪いクソ探偵になっていて、やっぱりずっと感じが悪いしひたすら悪役ムーブを楽しんでるところも変わらないんですが、なんか肩の力が抜けてるところもあり、ああ……やっぱりヱリカって素でも根っからの性悪クソ女だったんだな……子供の足とか平気で引っかけるし小学生にガンガン圧かけてくるし……と心がほの温かくなりました。この気持ち、あと10年くらい大事にしたいです……(ガチャ実装されるみたいだけどどうするの? 天井とかやったことないんですけど?)。

 名探偵ワニャンに心酔する古戸ヱリカ、というのは割と新解釈で、自分と主人以外の全ての存在を見下す孤高の古戸ヱリカ像とは相反するし、やや話の都合でそうなった面も感じるのですが、流行りのアニメにかなり気持ちの悪い入れ込み方をするミーハーな古戸ヱリカ、アリでは? と私の中で承認されました。別に見下しながらヨダレたらしても良いわけですし、人の心、古戸ヱリカの心は海より深くはかり知れない。いいと思います。名探偵ワニャンのオタクトークを延々繰り広げる古戸ヱリカ、気持ち悪くてすごく良かったです。

 ヱリカがひたすら良かったのでそれだけで100億点なのですが、コラボとしてもしっかり楽しくて、園崎姉妹とヱリカの「息の合った」とすら言える当意即妙の絡みが見られたのは眼福でした。園崎姉妹はいろいろ確執もある双子ですが、その2人が旅行先で心底楽しそうにキャッキャ騒いでる様を竜騎士さんの筆で見られるのは気持ちがいいし、重みもある。はしゃぎ回りつつもしっかり状況を俯瞰して役割をこなす魅音さん、はしゃぐ姉の抑えに回りつつ自分もしっかりはしゃぐ詩音さん、このはしゃぎのタガの外し方は原作者ならではと言ったところで、人様のキャラだとこういう崩し方はなかなかできんわな……と思います。園崎姉妹が古戸ヱリカの変態性に負けず劣らずの張り合いを見せてくれるクライマックスの姿は圧巻で、ヱリカのヤバさと部活メンバーのヤバさがこんな風にリンクするなんて……と10年越しのわかりを得ました。わかる……。来年は絶対ヱリカの方から雛見沢に来て村をメチャクチャにしてください。

 ミステリ部分はシンプルでしたが、うみねこの特殊ルールである「赤字と青字の推理ゲーム」のいいプレゼンになっていたし、仕掛けもかなり良かったのではと思います。叙述トリック……では決してないんですけど、見えてるのに前提が覆ると見え方が変わる、というミステリの定番を非常に竜騎士さん「らしい」味わいでまとめてくれていました。なかば部活のノリへと昇華されていく解決編もめちゃくちゃ面白くて、「ひぐらし」「うみねこ」のコラボとして完璧なオチになっていたと思います。これが原作者の出したコラボの答え……。

 シナリオ中、続編コラボを匂わせるようなコメントが度々あったので、これにはかなり期待しています。今回のコラボではひぐらし命の開発体制の中で竜騎士さんのシナリオが実装されるという形式がかなりいい方向に働いたと思うので、うみねこコラボだけと言わずちょくちょく竜騎士さんのシナリオが読めると嬉しいですね……。

 ただしひぐらし命のメインライターは叶希一さんですし、ゲーム本編のシナリオも「竜騎士さんとは異なるライターが書く外伝ひぐらし」としてしっかり手が掛けられた作品になっています。今回は竜騎士さんの参加が急遽決まった雰囲気があるので、叶さんにとって気の毒な状況になってやしないかちょっと心配なのですが、今後は竜騎士さんと叶さんが上手いこと分担して作品を作っていってもらえれば一ファンとしては理想だな……と思います。いい感じの展開になるよう、どうにかサービス存続してほしいですね……。

*1:CS版から流用してるみたいです……

*2:最近だと『幻想牢獄のカレイドスコープ』がかなり……でした。