暁佳奈『ヴァイオレット・エヴァーガーデン(上)』- アニメでカットされた暴パートにびっくり
- ヴァイオレットが「感情」をまず知識として学習し、実感のないまま代筆という形で模倣し、最後に自分の体験としていく過程の妙は、原作の描写からおこされたものなのか、アニメ特有の描き方なのか
- 控えめに言ってエグ味のある基本設定*1をアニメはあまり前に出さずに卒なく処理してた感じだけど、そもそも原作はどういうタッチだったのか
前者に関しては、この上巻の時点では該当するエピソードがないので判断保留。アニメ版はかなりヴァイオレット寄りの視点で、代筆者としての変化の過程が時系列*2で描かれていましたが、原作は基本的にクライアント視点の物語になっていて、ヴァイオレットというミステリアスな主人公の人となりをまずは外側から探っていくような構成になっていたんですね。自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)という職業名もまずはここにかかっていて、精巧な人形のように美しい少女というというところが繰り返し強調して描かれます。
話が進むとヴァイオレットの兵士としての過去が語られますが、こちらもかなり印象……というか見せ方の方向性が違いました。アニメは銃や単純な格闘術など比較的地味な戦闘しかなかったと思いますが*3、原作のヴァイオレット、なんと身長くらいある特注バトルアックスぶんぶん振り回して一人で数十人の兵を殺して回ったりしてて、あっそういうノリのやつだったんだ……てなりました。架空の19世紀くらいの時代感に見えるのに特に説明もなく近未来並みのハイテク義手が出てきたりして、なんか不思議な背景設定だな〜と思ってたんですが、それもこういうノリの名残だったんですね……(そもそもこの義手も戦闘用らしいですし)。
原作小説ではヴァイオレットの戦闘、というか殺戮のシーンにかなりしっかり尺が取られています。返り血に塗れながら敵を殺戮するヴァイオレットの姿は凄惨であると同時に活劇的な見どころとしても描写されていて、抑制的だったアニメ版とは微妙にニュアンスが違いました。作者さんも「戦闘シーン書いてる時がいちばん楽しい」ということを言っているので、大元はけっこうストレートに「戦闘美少女」的な趣向のある作品だったようです。お兄ちゃんがヴァイオレットを拾った経緯も「無人島に漂着したら殺人野生児に同僚を皆殺しにされたうえに自分だけなぜか懐かれてどこまでも着いてくる(たすけてくれ)」みたいな異様に与太度の高いエピソードになってて何コレ? こういうの講談の豪傑とかをキャラ付けする時とかに生えてくるやつでは? ヴァ、ヴァイオレンス・エヴァーガーデン……。
読んでた時は「ヴァイオレットをモノ扱いするなんて酷い!」みたいな憤りがなくもなかったんですが、改めて振り返ってたら「まあそもそもそういう作品だし……」という気持ちになってきました。アニメはこういうところをかなり細かくオミットして作品を綺麗な方向に統一していたので、英断だなあと思いつつ、もしかしたら複雑な思いをした原作ファンもいたのかもしれません。分銅つきバトルアックス振り回してベヨネッタみたいな動きするヴァイオレット……もう完全に別物ですけど、まあこれはこれでアニメ映えしたとは思います。
ヴァイオレット以外のキャラクターもアニメではかなりマイルドに調整されてたみたいで、原作では印象がけっこう違います。陰気で誤解されやすい朴念仁といった風だったお兄ちゃんですが、原作だとならず者が軍服着てるタイプの完全なろくでなしでびっくりしました。チャラいゴロツキですよこれ……。無害な良識人の感のあったホッジンズ社長もストレートな女たらしだし、ヴァイオレットの殺人ショーを賭けの対象にしてたりしてて大概です。少佐その人はわりと印象通りでしたが、幼いヴァイオレットに惹かれつつ殺人道具扱いをやめられない心情が彼視点で詳らかに語られるので、やはりどうしようもない大人感はありますね。下巻で挽回できるんでしょうか……。