『北条時宗 総集編』

真田丸』以前にちゃんと見てた唯一のNHK大河ドラマ。『鎌倉殿の13人』を見てたら懐かしくなって総集編を見てしまいました。鎌倉幕府得宗家の執権北条時宗が蒙古襲来を撃退するやつです。ただし蒙古が来るのは物語後半なので、基本的には幕府の御家人たちがひたすら謀反と粛清を繰り返す内容ですね。時宗の兄、庶長子である北条時輔が極めて重要な人物として扱われていて、この兄弟の愛憎劇が物語の実質的な主軸となっています。

高橋克彦さんが原作だから」というのが当時見ていた理由ですが、実はドラマ脚本のオリジナル要素がかなり強い作品です。チョイスされる登場人物はある程度共通しているのですが、性格も人間模様もかなり違う。原作は質実剛健時宗が幕府を力強くまとめ上げ、迷いなく蒙古に対抗していく内容なんですが、こういう根底の部分からし大河ドラマ版はまるっきり別物です。時宗はある種現代人のような感性の平和的で迷いの多い人物だし、物語全体としても「争うな、対話しろ」的な主張がかなり強い。その割に実際に対話が成立してる場面は少なく、実際に描かれるのは理想主義が空回りする様や骨肉相食む愛憎ドラマなので、なんだか時代性を感じるというか、2000年頃の反戦メッセージってこんな風だったかもな……と思うところではあります。

 脚本に何とも言えないところがありつつも、絵や演技として面白い場面は度々あります。渡辺謙さん(北条時頼)や北大路欣也さん(謝国明)の演技が堂に入っているのは勿論ですが、中堅俳優の個性的な怪演も目立ちます。反得宗家の首魁(旗印?)としてあれこれと陰謀を巡らせる宮将軍・宗尊親王を演じる吹越満さん(異様なテンションの京言葉でぐいぐいくるのが凄い)、史実では有力御家人なのにならず者出身という無理のある独自設定をつけられて半ばオリキャラと化した平頼綱を演じる北村一輝さん(ヤクザ映画から出てきたようなギラついた眼光を一人だけずっと発していて異様)あたりが好き。でも一番印象深いのはやはり、渡部篤郎さん演じる北条時輔ですね。

 渡部さんの演じる時輔はとにかく陰気でねとついていて、異様にダウナーな色気があります。画面に出てくるだけで不穏な気配が立ち込めてくる。見ていて気持ちいいとは言えないし演技過剰なところもあるかもしれませんが、この北条時輔という役自体が脚本オリジナル要素盛り盛りの過剰なキャラなので、この粘度の高さが非常に合っています。なにせ史実だと中盤で時宗に誅殺されるのに、劇中ではなんか普通に生き残ってしまい、勝手に蒙古とコンタクト取ったり海を越えてクビライ・カンに会ったりとやりたい放題のオリキャラ*1と化しちゃいますからね。

 このお兄ちゃんが本当によく分からなくて……。前半は、非嫡子であるせいで事あるごとに弟の時宗に差をつけて扱われる、という不遇の立場が執拗に描かれます。母も側室の扱いゆえに酷い死に方をしたりとか色々あって、恵まれた育ちで綺麗事ばかりぬかす時宗に愛憎入り混じる陰気な眼差しを向けていくようになる。「人は醜きものじゃ……」とか言ってる。これは分かります。中盤で蒙古から書状が来る頃には京に飛ばされていて、反得宗家の悪い連中に立場上あれこれ巻き込まれるんですが、鬱屈とした顔をしつつもあんまりストレートに時宗を裏切るということはしない。怨みはあっても野心はないので、謀反という感じにもならずにひたすら陰気ゲージだけを溜めていくんですね。ゲージ蓄積し過ぎていっそ気持ち悪いくらいの色気を醸してくるので怖いんですが、これもまあ分かる。

 分かんないのがここからで、陰気ゲージが振り切れてしまったお兄ちゃん、なぜか急にピースの人になってしまうんですね。ラブ&ピースのピースです。属国化を仄めかす蒙古へ返書することにも当初反対していたはずなのに、いつの間にか強火の融和派に転向してしまう。精神が限界に来ていたところを天使みたいな妻(ともさかりえ)に絆されたとか、子供が生まれて守るものができたとかの流れがあるにはあるんですが、それにしてもこういう変節に直結する思考の流れはちょっと見えなくて、何? お兄ちゃんどうしちゃったの!? てなる。そうこうしてるうちに政情も限界に達して時宗が時輔誅殺を決断、史実を逸脱した死亡イベント回避をやらかして事実上のオリキャラと化してしまうのは上に書いた通りですが、その後の行動もよく分からない。元寇で蒙古軍を手引きしたかと思えば対話の尊さを説いて蒙古の使節を鎌倉まで連れてきたり(使節は幕府に全員処刑される)、戦をやめさせようと蒙古の船に乗り込んで死にかけたり(その窮地を助けた下の弟がとばっちりで死ぬ)、あまりに裏目な行動を繰り返します。

 はっきり言ってやってることは無茶苦茶だと思うんですが、渡部篤郎さんの演技だけは常に迫真で、目を離し難いものがあります。夢想的な平和活動家になったら目がキラキラしてくるのかというと全くそんなことはなく、どさくさで妻を幕府に殺されたりしたのもあって陰湿なオーラには磨きがかかる一方。もうネットネトです。どう見ても闇に呑まれて真っ黒なんですが、そのどろりとした瞳で「憎しみを捨てよ〜」ってめっちゃ顔を近づけてきて、最後まで鬼気迫るものがありました。本当に意味がわからない。負の色気を漂わせないで……。

 以上、大河ドラマ北条時宗の見どころでした。脚本的にうーんなところも多いですが、時輔はじめ今でも強く印象に残っているキャラクターがいて、私にとっては印象深い作品です。時宗の父北条時頼が「鎌倉は夢の都じゃ」って決めゼリフをたびたび繰り返すんですが、そう言いながら幕府を維持するために謀略を尽くし、実子の時輔をも生贄にする。『鎌倉殿の13人』からの流れもあって、「鎌倉幕府ずっとこんなことやってんの!?」という気持ちになれるのも味わい深くてポイント高いです。本当にひどい話だと思いますが、だって史実なので……。

*1:なお時輔が生き残ってやりたい放題するのは高橋克彦さんの原作でも一緒なのですが、こちらの時輔は時宗とめっちゃ仲良しで、あえて動きやすい死者の身分になって時宗の右腕として暗躍するという正反対のキャラになっています。極端過ぎない?