『シン・ウルトラマン』感想、テンポの良い作品ではないけど奇妙な"間"がわりと好き

 これはゾーフィ。
ムービーモンスターシリーズ ゾーフィ(シン・ウルトラマン)


 映画は公開翌日くらいに観ました。好きなところと好きでないところが明確にあって、どちらかと言うと好きなところの話だけしてたいのだけど、好きでないとこを完全にスルーするにも作品としての比重が大きすぎるので、一回は整理しとかないとなという気持ちがあります。

 タイトルや某俳優など多少の匂わせはあるものの、『シン・ゴジラ』とはぜんぜん別路線の作品であることが冒頭から見て取れたので、あんまりそっちは意識しませんでした。質や一般性の面でシンゴジと真っ向勝負するような作品ではないし、毎回シンゴジをやる必要もないと思うので……(もしシンゴジと同じ路線で作ったのがこれだと言われたら困ってしまうけど、まあそんなことはないでしょ)。

 人間のセリフのテンポや間合いは、むしろエヴァ味を強く出してるなと思いました。目をつむって音声だけ聞いたりト書で読んだりしたら、まんまエヴァなんじゃないでしょうか。設定解説とか状況説明(という体の、これはこういう話しなんですよという文脈の誘導)を会話の中にどんどんねじ込んでいくあの感じ、リツコさんやミサトさんがあの場にいるかと思いました。シンゴジの会話劇の洗練された気持ちよさではなく、「いつもの」という懐かしさが漂っていて、この空気感のおかげで「今回はそういう路線なんだな」と判断したできたところがあります。

 あとは冒頭で神永隊員が逃げ出した子供を助けに行くと言い出して、リーダーも「頼んだぞ」とノーウェイトで承認するとこですね。シンゴジでも逃げ遅れた民間人がいるから自衛隊が攻撃を断念するシーンがあるけど、今回はそういうプロトコル的な話では勿論ありません。表面的に似てるからこそ全く違う意味合いが浮き彫りになっていて、「こいつらはヒーローをやろうとしている連中で、これはそういうリアリティライン*1の映画だぞ」という路線がものすごく分かりやすく示されている。終盤でウルトラマンの決死作戦をリーダーが即却下するシーンにも繋がるし、こういうところは好きな流れですね。

 そんな感じで、浅見隊員がチェーンソーでザラブ拠点にカチ込む辺りまでは人間側の劇も楽しく見ていました。巨大フジ隊員*2が出てくるとこも正直手を叩いて*3笑ってしまってました。人間が人間を撮ってると思えないような不気味さを感じたので、あの撮り方自体は割と好きです。人間主体のドラマをやるならここからクライマックスに向けてチームの深掘りがあると良かったんですが、何でかそういう方向にはならなくて、散々言われている通り尻やら匂いやらを前面に出していく流れになりました。背景にちょろちょろ映り込むくらいならほっかむりするくらいには不実な視聴者のつもりですが、こうもはっきり焦点を当てられるとスルーにも限度があり、「何でこんなことを?」とよく分からん感じになってしまいましたね……。

 後から考えると、「匂いは数値化できない」という位置付けや「群れ」やら「野生」*4やらのキーワードが見えてきて、外星人的な知性と対比してその辺のラインを見せていきたかったんだろうなということには、まあ思い当たりました。でもそれが理解できても、そこを面白い画や脚本として見せる形にしてくれないと考察班の与太で終わってしまいます。匂いだって群れだって色々な見せようがあったと思うんですが、結局ああいう既存の古い手癖に乗っける表現になってしまっていて、そういうものをそういうものとして書いた以上そういうものはそういうものになってしまう。「仲間の尻を叩く行為はマーキング的な意味合いで群れや匂いのキーワードと繋がるのかな」とか考えてみたところで尻叩きが尻叩きなのは変わらないし、別に面白くもならないので、この話はおしまいにします……。


 人間周りのあれこれはともかく、外星人や特撮は流石の面白みがありました。いちばん良かったのは散々言われてる通りやはり山本耕史メフィラスで、予告の時点で期待していた絶対面白い山本耕史メフィラスを見事に体現してくれたことに感激です。メフィラスの出てくるシーン全部好きです。山本耕史さんは元々なんとなく好きでしたが、今回の配役の妙のおかげでどこがどう好きなのかはっきり理解できた感じですね……。

 特撮面はあえて昔の特撮の「奇妙な癖」を最新技術の中に落とし込んでる感じで、このやり方には賛否あると思うんですが、単なる再現に留まらない絵的な面白さを生み出してるように思えて楽しかったです。人形を空中でクルクル回転させるような動き、今の技術で改めてやられると、ちょっと見たことないような物理法則感が外星人の異様な技術体系を感じさせてくれて良かったです。にせウルトラマンの真横にあのポーズで出現して一瞬静止するウルトラマンの珍妙な間も理屈なく好き。ゾーフィが喋る時の身振り手振りはもうネタの領域だと思うんですが、見てて気持ちよかったのでありでした。そもそもウルトラマンが無言でじっと立ってるだけで醸し出される絶妙な不安定感(安定感?)が面白いので、その点であのビジュアルがもう勝ちだったなと思います。

 総じてテンポの良さとはまた違う不思議な間が特撮シーン全体を奇妙で面白いものにしていて、ここが好みに合致したのはよかったです。しかし書き連ねてて思いましたが、やっぱこれ一般性のある面白みじゃないですよね……。別に面白みの部分を追いかけなきゃ見られない類の映画にはなってないと思うし、そこが刺さらなくても「変な映画だったな〜」と印象に残ることはあると思うので、不思議な作品だなとは思います。人間ドラマはともかく特撮としては独自のもの出せてると思うので、続編やるなら路線自体は曲げないでくれると嬉しいですけど、どうなるんでしょうね……。

*1:リアリティの提示的な意味では、冒頭の極太フォントがゴシップ記事の見出し的なニュアンスを醸してたのも良かった。

*2:巨大フジ隊員ではない。

*3:手を叩いてはいない。

*4:ご丁寧にもレヴィ・ストロースの野生の思考をこれ見よがしに読んでたし……。