『西の魔女が死んだ』

西の魔女が死んだ (新潮文庫)
む。むむむ。
ものすごくストイックなお話でした。かつて大好きなおばあちゃんと暮らしていたひと月ほどの期間の出来事を回想するという、言ってみればただそれのお話。読み終えて全体を見返すとたしかに主人公の心理面での物語はあるんですけど、現象面でストーリーといえるような出来事は数えるほどしかありません。つまりは、"分かりやすい安易な何か"に頼っていないお話とも言えます。
過ぎていく日々はただ淡々と綴られて、たとえば鳥がどんな声で鳴いているだとか、頼まれて畑に何を採りにいっただとかいった描写に筆が割かれます。私が読み取れていないだけでそれらすべての描写に確固としたお話的意味が込められているのかもしれませんけれど、本書はどうもその限りではなかったがします。こういった日常の何気ない描写は読んでいてとても心地がよく、けれど物語には貢献しません。
こういった構図、何かに似てると思って考えてみたら心当たりがありました。いわゆる美少女ゲームって、まさにこのパターンじゃないですか? いくら終盤で雲行きが怪しくなってヒロインが発狂したり連続殺人が起こったりするにしても、前半の長い長いラブコメが貢献している度合いはきわめて薄いように思います。だって美少女ゲームの前半って、大した事件もなくただひたすらラブコメやってるだけですもん。けれど、多分それでいいのだと思います。終盤のカタストロフで女の子の精神をぐちゃぐちゃにするのに需要があるのと同じくらいの割合で、前半のラブコメ展開それ自体にも大きな需要があるのでしょう。同様に、物語に直接関わらない寄り道っぽい描写だって、それが心地良ければそれはそれで意味があるのです。ええと、というわけで、新美南吉児童文学賞梨木香歩さんの作風はギャルゲーに似てると思いました、みたいな。