『インディヴィジュアル・プロジェクション』

インディヴィジュアル・プロジェクション (新潮文庫)
どうしても『インディヴィデュアル』と言いたくなってしまうスパイ小説読了。スパイ小説という呼び方が適切かどうか分かりませんけど、まあそれはそれとして。新潮文庫フェア用の普通より面積の広いオビがかかっていて、装丁が殺されちゃってたのが残念でした。
中盤以降はある種のジャンルではお馴染みの怪しい展開が仄めかされていて「あのオチか、あのオチをやっちゃうのか」と心配したんですけど、最終的には意外なところに着地して二度びっくり。とはいえカヤマさんの件とか明らかにおかしいところもあるので、まあそういうことなんでしょうけど。
例によって東浩紀さんというか流水三号が解説してました。「この人の批評は*1私自身の読み方とはあまり関係ないな」と思って軽くスルーしかけて、実際普段はそうしてるんですけど今回はちょっと思いとどまりました。阿部さんと東さんは仕事の関係以上のレベルで付き合いがあるそうですから、阿部さんが東さんの考え方に影響を受けている可能性は十分にありえるのです。単に批評家が傍から見て考えた解釈なら「まあ色んな読み方がありますし」ということで気にならないんですけど、それが作者自身の意図であれば話はぜんぜん別。「批評家の意見が作品を左右する」という可能性を意識させられました。実際にそういう視点でお話を思い返してみるとなかなか頷けるところもあって、闇雲な不信をちょっと反省した次第です。
あー、あと渋谷という土地柄がけっこう問題になってましたけど、魔界住まいの私にはよく分かりませんでした。

*1:東さんの批評自体を読み物として楽しむならともかく。