加害者少年の「兄」の成長小説としての『うつくしい子ども』

うつくしい子ども (文春文庫)

 初石田衣良さん。「酒鬼薔薇事件」をモチーフとして、加害者の身内の視点から少年犯罪の顛末を描いた作品ということになるようです。

 お話自体は加害者少年が反抗に至った心の深部に迫る、的な筋書きになっています。ただし終盤で明かされる「真相」は分かりやすい「外側の何か」に責任の一端を求める空想色の強いもので、「実在の事件」に対する「解答」として頷けるものではありません。

 実際のところ、この作品で焦点が当てられているのは加害者の心というよりも、その「兄」である主人公の少年です。加害者の身内として彼が事件にどう向き合っていくのか、という視点で捉えれば、本書はよくできた成長小説として見ることができるでしょう。

 中盤では過激な報道による被害や、そういう状況の中で地域社会を生きていく辛さが描かれます。自己憐憫に陥ることなく真摯に事件を受け止めていく中で主人公は「弟の本心を知る」という目的を得、ここからはややエンターテイメント的な結末に向けて物語の舵が切られることとなります。

 主人公の支えになる存在として描かれる、数少ない「友人」の描かれ方が面白いです。彼らは最初こそ隙のない造型をしているように見えるんですけれど、ある出来事を境として何か良い意味で壊れはじめます。そこから先、何かヤケになったというか吹っ切れた感じの彼らの振る舞いは実に気持ちよくて、主人公と合わせてこの作品をよい成長物語にしていたと思います。そして最後はハーレムエンド。えー。