批評戦争トルクルトア
文化の地トルクトルアに勃発した批評行為による言語勢力の支配権争奪戦。これもまた言理大戦の一幕に過ぎなかった。
「何のことはない。己に利する価値体系を相手に認めさせた方の勝ちだ」
「絶対言語はその体系内では常に公平な言語空間を提供する。ならばその無矛盾な空間自体を規定する立場、絶対言語自体を制定する立場に立てばよい」
「他愛もない。これでA&Cの内外律なんぞ時代遅れ、大衆向けの三文テーマに成り果てたというわけだ」
あらかじめ限定された制度の上での公平を強いられる人間たち。苦心の末に言理の秘法に辿りついた古代の魔術師たちは、しかし最早神と変わらぬ存在に成り果てていた。人と神との差は所詮、法の制定者と従事者の違いでしかなかったのか。
「冗談じゃねえ。分析と評価をごっちゃにしてんじゃねえよ」
「あのう、誉めてくれるのは嬉しいんですけど私別にこの漫画に世代間闘争の寓意とか込めたつもりは」
「人を不幸にする批評なんて大嫌いだ!」
しかし既にして敗北の決定した制度に抗うために弱き人間に残された選択は、やはり不合理に頼ることでしかなかった。公平の体裁を整え、実際制度の中ではそのように振る舞う神々に対して、人間は言葉の通じぬ群れ蝗となるしかなかったのだ。
暴動を開始する蝗の群れと、炎上する神々の書物。最早そこに理性はなかった。不条理な法に抗するために彼らに成せた行いは、結局のところ不条理な不法という最悪のものでしかなかったのだ。
暴走する乱雑なエネルギー……しかし自滅に向かって迸るその膨大な熱量に一定の方向を与えることに成功した第二の支配者が現れた。
……25年後。
怪人クローワンドラビートによる「批評家600人連続殺人事件」によって隆盛を極めたトルクルトア文明は崩壊する。
人外と化したクローワンドラビートの前身は無名の同人作家バンチェッスであった。彼の昇神の際の言葉は歴史家ニースフリルの名によって今に伝えられる。