『黒白キューピッド』 - 見ている世界が異なれば、当然出てくる言葉も異なってきますよねっと

黒白キューピッド (集英社スーパーダッシュ文庫)

 中村九郎さんは私の知る中で最も言語化の難しい作家さんで、どのくらい難しいかというと面白いか面白くないかさえ自分で判断できないくらい難しいです。この評価の難しさは、サンプルが少なすぎて評価方法が確立できていないことからくるものなのだと思います。いえほんとに、自分にとって新しすぎるものって、好悪の評価すら付けがたかったりするものだと思うんです。

 このお話も、もうどう評価したらいいものやら。そもそも私はまだ、この作品を評価できる段階にないのかもしれません。基準なきところに評価なし、とも言います。(いま作った) 今はこの作品を評価する前段階として、ひとつでも多くの言葉をひねり出すことが自分にできることなのかなあと思います。

 あとがきの文章を見る限り、中村さんはこういう文章を書いているというよりも、こういう文章しか書かないのでしょう。本当に認識レベルで、この人の見ている世界は私の見ているそれとは違うのかもしれないと思います。同じ対象を見ていても、それを代入する関数が異なれば出てくる答は当然異なってきます。自分と異なる関数を通して見えてくる世界の異なる在り方とは、それだけでも刺激的なものに違いないのです。