『神様のパズル』

神様のパズル (ハルキ文庫)
SF小説の皮を被った青春小説」の皮を被った農業小説。

いえ、たしかにSFとしても青春ものとしても閾値は越えてると思いますけれど、皆もっとこの作品の農業の部分に目を向けてあげていいと思います。SF小説も青春小説も世の中にはゴマンと存在しますけど、農業小説なんてそうそうお目にかかれるものじゃありません。

たしかに前二者の要素と比べれば扱いは小さいかもしれませんけれど、「米作り」を耕すところから食べるところまでちゃんと書ききった小説なんて初めて見ました。田んぼに台風が来ちゃうくだりとか泣けてきます。ラストで収穫したお米を食べるシーンは本気で「よかったねえ」と思いました。

学ぶことも遊ぶこともなく、農業だけに一生を費やすことを批判する箇所が出てきますけれど、これがまた何とも痛切。農業に生きる上で避けることのできない、重要な問題提起だと思います。

えーっと、あとはあれ。普通にライトノベルな軽い文体については、読みやすくて楽だなーくらいにしか思ってなかったんですけれど、あとがき読んでびっくりしました。この人、何ともう今年で五十歳のおじさまじゃないですか。その年齢を考えると、本書の軽さは驚異的です。主人公が就職活動や学内の問題で右往左往してる様子とかも滝本竜彦さんを彷彿とさせる痛々しい出来ですし、ちょっとありえないと思いました。SFから青春にシフトしていくラスト百ページの展開が、とにかく素晴らしかったです。