『分身』

分身 (集英社文庫)

北海道に暮らすお嬢様育ちの氏家鞠子さん、東京でアマチュアバンドに打ち込む快活な小林双葉さん。瓜二つの容姿を持ちながら別々に生きてきた二人の人生が、母の死や自身の出生の謎を探ってる内に思いがけずごっつんこ。(執筆当時の)最先端医学を絡めて展開していくサスペンスです。

書かれた時期が1992年頃とあって、当時最先端だった科学技術も今見ると「予想の範囲」。それなりに引っ張った末に提示されるコトの真相には、正直なところあまり意外性はありません。

にも関わらず、序盤から読者を引っ張る謎の提示の仕方は見事です。最終的な着地点自体には早くからアタリがつくのに、次から次へと新しい展開が繰り広げられるお話からは目を話すことができません。つまりはストーリーテリングの力でしょう。各章を読み終わった後、必ず次の章を読みたくなるこの牽引力。

ラストは随分とあっさりめ。「二人の物語」としてはベストな終わらせ方だったと思うんですけれど、そのために他の大勢の登場人物たちそれぞれの「物語」は収束しないまま宙ぶらりんにされた印象です。

これはお話のどの部分に重点を置いて読むかという問題なのだと思いますけれど、脇役の人たちもそれなりに印象的な描かれ方をしていただけに、少し物足りなさが残ってしまったというのもありました。まあ、とても綺麗な終わり方なんですけどね。