『円環少女(3) 煉獄の虚神(下)』

円環少女 (3) 煉獄の虚神(下) (角川スニーカー文庫)

人類最強レベルの敵とドンパチやりあうという、第二作にして先が心配になってしまう超インフレ展開。いえ、本当に大丈夫なんですかこれ? この人のことだから考えあってのことだとは思うんですけど、ひえー。ひええー。

上巻では「死地に赴かされる子供」としてのメイゼルちゃんの描写が目立っていたように思いますけど、今回は「地球と魔法世界の軋轢」がより前面に出ていたように思います。神の存在しない地球に住まう人々は、観測によってあらゆる魔法を消去する能力を持っています。だから魔法使いたちは地球を地獄と呼んで忌み嫌い、地球人を悪鬼として蔑んでいます。

「魔法」という絶対的なアイデンティティを持った魔法使いたちにとって、地球に対する偏執的なまでの差別意識は非常に根の強いものです。彼らが地球に言及する際の描写を見ていても、ちょっとこれはどうしようもないくらいの無理解が感じられます。

前巻の感想でメイゼルちゃんが死ぬ以外のラストが想像できないと書きましたけど、彼らの間に横たわる断絶が円満な形で埋められるような展開はもっとありえないだろうなと思いました。業という言葉がぴったりの作品だと思います。

濃ゆい濃ゆいSF的な魔法バトルの面白さは今回も健在。読みにくさも相変わらずですけれど、頑張ってちゃんと状況を理解しながら読み進めれば、触れれば墜ちる弾幕シューティングのような紙一重の緊張感を堪能することができるでしょう。

ただ、少し気になるところはありました。今回メイゼルちゃんたちの前に立ち塞がった敵は、そのたった一人を倒すために高位魔導師約700人が同時に攻撃を仕掛けなければならないほどの相手なのです。この強敵とメイゼルちゃんたちは、正面からまともにぶつかり合うことになります。

その戦闘の描写自体は面白く読めるんですけど、彼我の700倍にも及ぼうかという絶望的な実力差が十分に表現されていたかというと、さすがにちょっと微妙なところ。こういった物語補正が働くならメイゼルちゃんが生き残る未来もイメージできるんですけど、問題の解決にはなってないので複雑な気分ではあります。まあ、あまりにも難しい要求ではあるんですけどね。

それはともかく、今回は東郷先生が格好良すぎました。お約束とはいえ、これは痺れます。この作品の最後の良心という感じでした。