『人類は衰退しました』

人類は衰退しました (ガガガ文庫)

 「妖精さん」という架空種族の生態を思考実験小説的に描きつつも、そんな硬派さをオブラートで包んだメルヘンでおとぼけな雰囲気を堪能できる作品。フィーリングだけで妖精さんかわいいかわいいと楽しめるんですけれど、実は凄く緻密に「かわいさ」を造型されてるのかなとも思います。

 ヒトよりはるかに高度な知能を有しながらもエネルギー保存則から解放されてるっぽい節のある妖精さんたちは、決して深刻な「闘争」状態に陥ることはありません。行動原理も種の保存やら何やらでなく単なる「楽しさ」の追求で、お話が自然とそういう方向に流れる土台が設定の時点で完成しているといえます。

 また単純に、これは描写力という面が大きいと思いますけど妖精さんの言動がたいへんに愛らしいです。特にひらがなで喋るセリフのひとつひとつが恐ろしくいい味を出していて、ほのぼのとした会話の中に妙に斜め方向に気の利いたエスプリが含まれていたりして、たしかに妖精さんは知能が高いんだろうなあと感じさせなくもない効果を生み出しているような気がします。気がします。

 たとえば、ヒトである主人公が妖精さんたちに名前を付けてあげましょうと申し出るシーン。

妖精さんたち取り乱します。
「ばかな」「そんなことが?」「かちぐみやんけ」「いっそたべて」

無邪気に驚くほのぼのとしたセリフの中に「かちぐみやんけ」みたいなのを混ぜてくる感覚がやたら好きです。これがノベルゲーム文化? ロミオさんのアビリティ抽出したいです。