魔王メモ

 私が誰であるかはどうでもよい。名乗るつもりがないとか、自分の正体を知らぬとかいうことではない。私は名無しであるかもしれぬし、祖紀神アレであるかもしれぬし、魔王ヴァレリアンヌであるかもしれず、またあるいは言語魔術師ミアスカですらあるかもしれぬ。しかし私は、そのいずれかであることを限定しないということである。

 なんのことはない、視点の統一、文体の統一、そういった約束事が私には億劫なのだ。だから私はその時々の気分によって、さしたる脈絡もなく名無しとして語り、祖紀氏アレとして語り、魔王ヴァレリアンヌとして語り、言語魔術師ミアスカとして語る。これはそういうものなのだ。

 だからあなたも、いちいち私の正体を詮索しようなどと無用な努力をせぬことだ。それを明かす必要があれば私はそれを明かすし、私がそうしなかったのならそれはあなたが知る必要がないか、そもそも私は何物でもなかったということにすぎないのだ。