『空の境界(中)』

空の境界(中) (講談社文庫)

 物語の中盤以降に登場する「小川マンション」がものすごく綾辻行人さんの館ものっぽくて、ああ、好きなんだなあと思いました。この館の構造はお話にも最大限に貢献していましたし、上手くやったなあと思いました。

 衒学的な言説を戦わせる形而上バトルもどんどん筆が乗ってきて、そういう向きには安心して読める作品になっています。今でこそそう珍しい作風ではありませんけど、そういった流れの源流としての堂々とした威厳がここにはあると思います。

 笠井潔さんのファンなだけあって、この衒学の応酬を見てると評論を読んでるような気分になってきます。依って立つ大本がない空理空論とはいえ、そんなものでも積み上げれば立派な論理の体系が生まれえます。それが本作で綺麗にキまっているかというと微妙なところですけれど、この方向を突き詰めるとまた面白い世界が見えてきそうな気はしました。