『残酷号事件the cruel tale of ZANKOKU-GO』

残酷号事件 the cruel tale of ZANKOKU-GO (講談社ノベルス)

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 もうタイトルだけでお腹いっぱいというか、「残酷号」ですよ「残酷号」。頭のどういうとこ使ったらこういう格好良さとどうしようもなさを合わせ持ったネーミングをひねり出せるのかと。凄い。タイトルだけ見ると「船上ミステリー?」と思わないでもないですが、実のところは「正義の怪人・残酷号」のお話でありました。なにそれ。

「残酷号」はなぜ「残酷号」であるのか、という。個々に発生する残酷な事件との戦いが描かれてはいますが、最終的にはやはり「この世界の残酷な在り方」という抽象化した原理が問題となってきます。スピリチュアルペイン的な? 具体的な現象が問題なわけではないから、対症療法的に痛みを止めることが決してできない、という残酷がここにあります。

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 かつてブギーポップが流行った頃は、ほんの一瞬だけ上遠野さんの感性が世の象徴たりえました。文化圏の中でちょっとした時代を作るくらいのブームにもなったわけですが、もちろんそんな流れはすぐに去ります。

 でも上遠野さんは、それでも相変わらず同じテーマを扱い続けています。それは「今さらこんなの誰が得するんだ」的なテーマであり、作風です。でも上遠野さんは、その方向性をより突き詰めていっていると思います。こういうものは、ブームのまっただ中であることないこと盛んに言い交わされるような状況では、なかなか打ち込みづらいことでしょう。

 ブームが静まることで、より安定した成熟の道を歩んだのが、上遠野さんという作家だと思っています。ブームが廃れてからが作品/ジャンルの成熟期という記事をちょっと前に書きましたが、ここでいちばんに想定していたのが上遠野さんであったりします。

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 英題が"case"じゃなくて"tale"になってることからも分かる*1通り、いちだんとミステリー離れの進んだ作品。いちおうラストあたりでネタはあるものの、「こことこことここに伏線書いときましたよ」という感じ。そのあたり、タイトルで判別できるようになってるのは親切設計なのかもかも。*2

*1:わかりません。

*2:わかりません。