『津波災害――減災社会を築く』

津波災害――減災社会を築く (岩波新書)

 2010年暮れの出版ですが、その内容が3ヶ月後に起きた東日本大震災津波被害によく当てはまるとして評価されている本。ああいうことがあった後なので津波の危険性を訴えてる言説にはこと欠きませんが、「流行りネタ」の性質上、手に入る意見も玉石混淆。へたに震災後に出た情報を調べるよりも、前々から地道に研究を重ね減災に取り組んでいた人の意見の方がかえって信頼性が高い、という好例のような本かと思います。

 津波の科学的なメカニズム、津波の引き起こす被害と過去の実例、行政・市民が取るべき対策とその現状、といった観点から、ひと通りの解説がなされています。メカニズムの科学的説明あたりは数式など出てきてちょっと難しいですが、分量的にはわずかなもの。それ以外の部分は、読もうと思えば誰でも読めそうな平易な内容です。洪水や高潮など津波以外の水害や、減災一般についての記述もあるので、津波常襲地域の人でなくても読む価値はあるでしょう。

 自分の経験や感覚を基準にして、安易に「ここまで津波は来ない」と判断するな、強い揺れを感じたらとにかく速やかに避難せよと、本書は口を酸っぱくして言います。その本書ですら(大規模な津波防波堤があるため)「際立って安全になっている」(P166)と述べている釜石市や大船渡市すらああなったことを考えると、もうどれだけ強固な防災設備があったとしても大地震の際はいったん忘れた方がいい、という結論になりそうです。