BOOK

著者の考えにまったく賛同できない名書にして珍書 - 高木徹『戦争広告代理店』

単行本版には「情報操作とボスニア紛争」というタイトルがついていました。その名の通り、「この紛争でモスレム人が被害者、セルビア人が悪玉という世論が形成されたのはPR企業の力だった」という内容。プロの手によるPR(Public Relations)が国際情勢にいか…

「百年戦争」なんてなかった - 佐藤賢一『英仏百年戦争』

小説家・佐藤賢一さんの手による英仏百年戦争解説新書。既存の歴史知識を要求してくる内容もほとんどなく、私みたいな素人にも入門書としてさらっと読めます。歴史ものの重厚さなどを省いて簡潔な説明に特化しているので、彼の書いてる小説作品よりもよほど…

『津波災害――減災社会を築く』

2010年暮れの出版ですが、その内容が3ヶ月後に起きた東日本大震災の津波被害によく当てはまるとして評価されている本。ああいうことがあった後なので津波の危険性を訴えてる言説にはこと欠きませんが、「流行りネタ」の性質上、手に入る意見も玉石混淆。へた…

『銃・病原菌・鉄』

人類史の超有名なご本。タイトルに反して、銃と鉄それ自体の話はあまり出てきません。ある文明がいかにして銃や鉄(や病原菌の免疫)を獲得し、それらを持たない別の文明を侵略するに至ったのか。そしてそもそもなぜ銃や病原菌や鉄を持つ文明と持たない文明の…

『戦争の常識』

初心者にとって知りたいことが、知りたい言葉で書いてある、ザ・入門書といった感じ。軍隊について知ろうとしている素人にまず一冊だけ勧めるなら、じゃあとりあえずという感じで選べるくらいには手堅い内容。 カバーする範囲は次の八章。 国防の常識 軍隊の…

『ドイツ史10講』

フランク帝国から東西ドイツ統一あたりまでの流れををさらっとー、という感じ。こういう新書系は私程度の知識ではいい本か悪い本かも判断できないのですが、とりあえず読みましたの記録程度に。

『フリーメイソン 西欧神秘主義の変容』

フリーメイソンについての"まともな"本。300人委員会とかネオアトランティスとかラー言語は出てきません。18世紀の「グランド・ロッジ」成立からアメリカ建国までの歴史をなぞりつつ、理性主義・自然科学主義・人間主義といった当時の西欧思想を反映した団体…

夢の大切さと大人の汚さを同時に教えてくれる本『古代への情熱 -シュリーマン自伝-』

幼少の頃に親しんだホメロスの詩を信じてトロイア遺跡の発掘を夢見、大志を実現するため下働きから大出世して巨万の富を得、遂には"「ホメロスの詩はフィクション」という当時の常識"を覆してトロイア遺跡の発掘に成功した大偉人……ということになっている人…

そこに千差万別の物語構造を見いだしたい - 大塚英志『ストーリーメーカー』

「物語感覚」は普遍的ではないのかもしれない まだ誰も指摘してないので自分で言っちゃうと、この記事のいちばんの突っ込みどころは、まるで自分に「物語感覚」があるような顔でぬけぬけと偉そうなこと書いてるところですよねーみたいな。一作でいいからちゃ…

読書眼たる武器を増やすということ - 平野啓一郎『小説の読み方』

小説を読む際の着眼をどのように置くか。そのパターンを多く持っているほど、たくさんの「武器」に習熟した人だと言えるでしょう。 豊穣な解釈のポテンシャルを秘めた作品であっても、対応する「武器」の用意が読む側になければ、「つまらない」か「分からな…

『思考の整理学』

1 すごくハイスペックな人なんだな、というのが読んでて分かるご本。いちばん頭が冴えるのは「朝飯前」なので、朝食を遅らせて昼まで「朝飯前」の状態を維持すればよい……とか、かなり個人的で無茶な話も載っています。 ただそういうのも含めて、ハウツー本で…

「本を読む」とはどういうことかをもう一度考え直すために - 松岡正剛『多読術』

すごいいい本だったのでみんな読めばいいと思います。『多読術』というタイトルから、ありがちなノウハウ本を想像するのは誤り。読書と編集に関わりながら半世紀を生きてきた著者・松岡正剛さんの、読書という"営み"に対する濃密な思想がみっちりと詰まった…

『眠る秘訣』という良書

1 良書です。 それが人間の三大欲求のひとつであり、生き方の効率に多大な影響を与える要素であるだけに、睡眠に関する書籍はたくさんあります。その分、うさんくさいのも多いわけで……。典型的なのは、特定の個人特性を持つ人にはよく効く(でもその他の人に…

『子どもの最貧国・日本』

タイトルはやや強調されたもので、先進他国と比べた日本の現状が無条件に最貧であるというわけではありません。それにしても、「児童貧困」問題に対する日本の無関心さは、先進国の中でも飛び抜けているらしいです。 海外*1の貧困事情を資料としつつ、日本で…

『3時間熟睡法』

睡眠効率を上げよう! というご本。本文中では「睡眠は一日3時間で十分だ」ということが力説されていますけど、どうにも説得力のある根拠が示されません。ことがことだけに、そのまんま鵜呑みは危険でしょう。3時間というところに拘らず、睡眠時間に対する休…

『はじめての構造主義』がよく分からなかった人は『寝ながら学べる構造主義』を読めばいいと思った話

構造主義に関する入門書として最も有名な橋爪大三郎さんの『はじめての構造主義』はあまりにもレヴィ=ストロースさんの解説に寄り過ぎていて、レヴィたんが萌えるということはよく分かったけど結局あたまのいい人が「構造主義」って呼んでる概念はどう捉え…

『ジャイアント・ロボ THE ANIMATION -地球が静止する日 完全設定資料集』

いわゆるアニメーションの"原画"設定資料集という感じ。各キャラクターの表情各種、廃案になったデザインや原画家のコメントなど。続編を待ち望む思いが高まりました。 あくまで「設定画」がメインの品物。物語上の設定についてはちょっとした添え書き程度で…

『はじめての構造主義』

分かりやすかった気がします。気がしますーというのは、各々の章に書いてあることはすんなり頭の中に入ってきたものの、では結局「構造主義とは何なのか」という根本的な疑問がいまだ十全に解消された気がしないからです。 これは橋爪さんの説明がどうという…

『神話と意味』

構造主義の先駆者、レヴィ=ストロースさんのラジオ公演を文章に起こしたもの。話し言葉、それもレヴィさんの地元仏語でなく英語を用いて語られているので、あまり突っ込んだ内容には踏み込まれていません。その反面、表現は非常に簡潔・明瞭で、レヴィさん…

『世界の神話101』

西洋から東洋、果ては島国の少数民族の神話まで、見開き二ページを一講とした百一の神話学的解説が収められています。各地方ごとに十二名の専門家が執筆に参加していて、著者欄に表記されている吉田さんは編者ということになります。 各地の神話をデータベー…

『火星の人類学者』

脳神経科医の作者が、人の認識にまつわる様々な症例を描いたノンフィクション。 色覚を失うことで「別の世界」が見えるようになり、新たな表現力を獲得した画家。視力を回復することで新しい世界に打ちのめされ、健康な生活を送れなくなった元盲人。などなど…

『鼻行類 新しく発見された哺乳類の構造と生活』

たまにはこういうのも。離れ島で独自の生態系を確立しながらも、文明の影響で発見からわずか二十年のうちに滅んでしまった「鼻行類」に関する、現存する数少ない資料書です。離れ島で独自の進化を……というとオーストラリアの有袋類*1が代表的ですけど、この…

『「複雑ネットワーク」とは何か』

複雑とタイトルにありますけど、カオスとかそっちの事柄はほとんど扱ってません。スモールワールドとかクラスター性とかスケールフリーとかハブとか、ネットワークの重要な性質を説明するのが前半。そしてこれらの性質に絡めて、伝染病やmixiや脳やビジネス…

『yoshitoshi ABe lain illustrations』

衝動買い。 まずいです。まずいですってこれ。買う予定なんてぜんぜんありませんでしたし、そもそも『lain』はアニメの方もゲームの方もまったく知らない*1のに、お店でちょっと表紙を見かけただけで完全に撃沈。なにこの眼力。税込み3780円、とても気軽に変…