『思考の整理学』

思考の整理学 (ちくま文庫)

1

 すごくハイスペックな人なんだな、というのが読んでて分かるご本。いちばん頭が冴えるのは「朝飯前」なので、朝食を遅らせて昼まで「朝飯前」の状態を維持すればよい……とか、かなり個人的で無茶な話も載っています。

 ただそういうのも含めて、ハウツー本ではなく個人的な方法を語るエッセイ的な本であるという注意書きはされています。ひとつひとつの具体的な「方法」自体を鵜呑みにして真似るのではなく、抽象化して自分の中に取り入れることができれば、有意義な経験にもなるかと思います。

2

  • イデアは一気に詰めず、ストックしたまましばらく「寝かせる」のがよい
  • そうすれば、つまらないアイデアはそのまま忘れ、見込みのあるアイデアが残る
  • 「忘却」という人間の機能の活用
  • 人間は自然と「異本」を作ろうとするので、寝かせているアイデアは自然と洗練されたり、醸成されたり、他のアイデアと化合したりする
  • イデアをノートに記し、定期的に整理して別のノートに移し替えていく行為は、「寝かせる」ことによる経年洗練を意図的に促進させる方法
  • 同じアイデアでも、記したノートが変わるだけで周囲の文脈との関係性が変化し、それが触媒になったり化合しやすくなったりする
  • ひとつの分野を一箇所に集めるよりも、ばらばらな分野で混じり合う機会が設けた方が収穫逓減に陥りにくい

 目次でみた内容はわりとばらばらな印象でしたが、実際読んでみる結構「寝かせる」「交わらせる」の発想が通底していました。このあたりは、普段の思考生活を充実させる発想として一般性のある示唆に溢れたものだと思います。

3

 80年代の書物なので、今見るとけっこう当たり前の話に頁が割かれていたりはします(単なる記憶力では人間はコンピュータに勝てないから……とか)。それでも古さを感じない面白い指摘はいっぱいあって、さすが含蓄のある著者自身の固有性の現れかというところ。細かいところで面白かった指摘はこのあたり。

  • 最初から手取足取り教えず、あえて放置する期間をおいてやると、その不満が学習意欲に繋がる
    • 例として、漢文の素読は最初意味を教えず、ただ音だけを読めと指導するもの。そうすれば、嫌でも文章の「意味自体」に興味が沸いてくる
  • 難解な文章をあえて素早く読むと、逆に楽に理解できたりする
    • 修辞的残像効果により、一文一文読むよりも全体が繋がって見えるため

 まあまあ、頭のよい人は学ぶのの上手い人なのね、というのを見せつけてくれる一冊でした。