ゲームは世界をシミュレートする

 このインタビューが素晴らしかったので。

 ここで話しているX氏というのは、ロマサガ2からミンストレルソングまで、サガシリーズのバトルシステムを長きに渡って手がけてきた人です。閃き、陣形、連携、リール*1と、サガの代名詞であるシステムの多くはこの人が生みの親。

 X氏のバトルデザインで特徴的な点のひとつは、システムの隠蔽性・混沌性だと思っています。つまり、ダメージ等の計算式がよく分からない。たとえばこのサガフロ2の場合、剣スキルが与えるダメージに剣スキルのレベルが依存するのはまあ当然なんですが、実はそれだけでなく最大WPと現在WPの差分値も大きく影響しているとか、何か色々要素があります。そういうシステムは経験や研究によって少しずつ明らかになることもありますが、影響が微弱なため内部データが公開されない限り分からないようなものも存在します。基本的に、その厳密な計算式は闇の中なのです。

 どこだったかでX氏が言っていた話では、計算式が自分でも完全には分からないよう最後に調整をいじっているそうです。サガフロ2の味方キャラのステータスにしても、全て一から意図して設定しているわけではなく、ある程度ランダムに生成した数値セットの中から使えそうなものを選んだんだとか。決して覗き込めないブラックボックスの魅力とか、秘められた数値の深遠さ、偶発的に生じる混沌のバランス、そういった奇妙なパラメータの世界が、サガシリーズには内包されているのだと思います。


 一方で、数値や計算式を完全に公開しているゲームもあります。というか古来のゲームではそれが当たり前で、アナログゲームはルールを全て公開しておかないとゲーム自体が成り立たないでしょう。ジャンケンだってオセロだって将棋だって、従来のゲームは"システムを全て提示した上で"より良いプレイ方法を追求していくといったものでした。

 ただコンピューターゲームはこの特殊な例外*2で、「システムを計算機に任せる」ことでルールの隠蔽が可能になりました。だからコンピューターゲームには、自ずと二つの指向が生まれます。ひとつは、従来通り"ルールを全て開示していく"という傾向のゲーム。もうひとつは、"ルールを積極的に隠蔽する"ゲーム。まあダメージ計算式まで公開してるようなRPGは今日び逆に少ないんですが、それにしてもサガくらいになると、"隠蔽性"それ自体が作品の大きな魅力になってるなあと思います。

 ついでにフリーゲームにも触れておくと、私がよく名前を挙げる「ステッパーズ・ストップ」「アンディー・メンテ」という二つのサークルは、作者同士が仲良しであるわりに、ここで述べたような指向性が真逆です。「ステッパーズ・ステップ」では、ランダム性すら排除して1ポイントのパラメータの駆け引きに思考を巡らせるという、ストイックなシステム開示指向のゲームが作られています。一方の「アンディー・メンテ」はかなりシステム隠蔽指向のゲームが多くて、使うまで技の効果がわからないし依存ステータスも不明、なんてことがざら。(まあマニュアルに「いろいろ試して操作方法をあみ出してね」って書いたりするくらいですし……) こういった傾向は作者さんのゲーム思想をもろに反映していて、なかなか面白いものです。

 システム開示型のゲームには、システムの弱点を看破し最適解を見いだすという、分析的な楽しみがあるでしょう。対するシステム隠蔽型のゲームでも、隠されたルールを分析しようという挑戦に身を投じることが出来ます。でもそれだけではなく、自分自身がそのルールの中に飛び込んでパラメータに翻弄される、という体験的な側面に楽しみを見いだすことも可能でしょう。「パラメータと演算によって構成されたシステム」という発想は、架空世界のシミュレータ*3にも行き着くものです。そういう世界でシステムが隠蔽されているというのは、世の中が未知であることと相似のようにも思えます。

 ゲームというと「攻略するもの」という捉え方がまず意識に上りますが、そこに「シミュレータ」としての機能が付随するのは面白いな、と思います。おそらく「シミュレータ」はゲームの進化の中で副次的に分化した別の機能で、本来の目的とはちょっとずれたところにあるのでしょう。ただ現在のコンピュータゲームでは、それらがもはや不可分の要素になっているとも言えます。そういう時、私たちは既にゲームを「攻略しよう」としているわけではなく、ゲームというシステムの上に立ち上げられた世界の神秘をただ見つめ、あるいは呑み込まれているのだと思います。ここのところは結構ごっちゃになりがちですが、意識して切り分けつつ上手いこと融和させていけば、また違ったゲームの楽しみ方・作り方が見えるのかなあと思いました。

*1:あわわ……。

*2:「だけ」と言わないのは、ゲームマスターがルールを隠蔽したままゲームを進めていくようなスタイルがないとは言えないため。うみねこなんてまさにそうだし。

*3:環境ゲームとかライフゲームとか、ああいったものがそれでも「ゲーム」と表現されるのは面白いです。