『銃・病原菌・鉄』

文庫 銃・病原菌・鉄 (下) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎 (草思社文庫)
 人類史の超有名なご本。タイトルに反して、銃と鉄それ自体の話はあまり出てきません。ある文明がいかにして銃や鉄(や病原菌の免疫)を獲得し、それらを持たない別の文明を侵略するに至ったのか。そしてそもそもなぜ銃や病原菌や鉄を持つ文明と持たない文明の差が生じたのか、というところが本書の焦点です。

 人種の優劣が現在の先進/後進文明を決定づけたという見方を強硬に否定する著者は、文明発展の遅速を徹底的に地理環境的要因で説明していきます。役に立ち、育てやすく、品種改良しやすい作物や家畜を多く持つ地域ほど文明発展が有利になる、というその論旨はきわめて単純明快。理屈だけなら長文ブログ記事でも足りるくらいなのですが、そこに歴史上の膨大な実例をひとつずつ当てはめていくことで、論の検証と肉付けを丁寧に行った本という感じです。

 地理環境的なあれこれを突き詰めると、究極的には「東西に長いユーラシア大陸では似たような気候が広範囲に広がっているから、南北に延びたアメリカ大陸やアフリカ大陸より作物・家畜が伝播しやすく発展が加速したのだ」というミもフタもない結論になり、言われてみればそうなのかなー、と頷くしかありません。ちょっと単純すぎる話なので、ここに書かれていない反論もいろいろあるのだろうと思いますが、ともかく良書でありましょう。

 あー、あと参考。

 山形浩生さんの批判的コメントつき。日本が焦点に当たると、けっこういい加減なこと言ってる部分もあるんだなというのが見えてきます。これはこれで本書の発言をどのくらい信頼するかの指標になりそうです。