人間基準のスケールでは動いてくれない無慈悲で巨大な超構造体世界 - 弐瓶勉『BLAME!』

BLAME!(1) (アフタヌーンKC)
 シドニアがアニメ化された今更になって、なぜか旧作を読み始めた私。さいきんKindle Paperwhiteを買ったので、それの体験もかねて。面白いものを読んだ後はだいたいいつも同じこと言ってる気がしますが、こういうアタマをガツンと殴りつけて世界観を啓いてくれるような作品には、10年くらい早く出会っておきたかったなーと思いますね(『EDEN』目当てでアフタヌーンを流し読みしてた頃にニアミスしてた記憶はあるんですが)。

 全編を覆い尽くすSFガジェットももちろん面白いんですが、超構造体やネットスフィアの巨大かつ無機質な機序を前にした人間のとるにたらないちっぽけさ、この人間観と世界観こそがなによりもSFだなあと思いました。人間をはじめとする小さな生物たちも敵対や協力や抗争などを繰り返しながら必死に生きているわけですが、そういうった些細な営みは、超構造体の圧倒的な力の前にたやすく呑み込まれていく。世界は超構造体のスケールを基準に動いていて、人間など象どころか洪水に流される蟻同然という世界。時間や空間すらも人を置き去りにし、もはや人間基準の倫理などまともに機能しなくなるこの感じ、なんていうかワイドスクリーン・バロックですねえ。

 無口かつ無表情でありながら行動の結果だけを見ると「情に篤い熱血漢」にすら見えてくる主人公、霧亥の造形もとっても良いです。自分の命に危害を加えうる相手を先制攻撃で排除する無慈悲な合理性を持ちながら、行きずりでちょっと縁を持っただけの人を救うために躊躇なく命を投げ打つ、という霧亥の行動は一見すると無茶苦茶なのですが、こういう人間に厳しい世界で優しく生きていくためにはそうするしかないのかなあと。

 あと霧亥の雰囲気って何かに似てるなと思ってたんですが、RPGによく出てくる「セリフを喋らない」系の主人公なんですね。無口な主人公が、旅する先で様々な出来事に出くわして「人助け」をするのだけど、彼らの「物語」そのものには介入せず、単なる通りすがりとして見届けるだけで去っていくというアレ。喋らない主人公ってだいたいクールでハードボイルドな造形に見えるものでして、そりゃあ霧亥がカッコいいのも頷けるわと思いました。あでもブラム学園だとムッツリスケベになってるので、あっちが本性なのかもしれませんが……。