『仮面の告白』

仮面の告白 (新潮文庫)
初ミシマさん。本書から"ナルシズム"のにおいを全く嗅ぎ取ることのできなかった私はもう駄目かもしれません。中二病の、中二病の王国が見えますよ! ほらあそこ!
太宰治さんが嫌いだったとか、スーサイドしたとき自衛隊来なかったとか、まあその手の断片的で歪んだ情報しか知らなかったので、実際に読んでみた感想はわりと新鮮でした。最初の方で主人公が女装をはじめたので「これはまさか私小説版の『ゆびさきミルクティー』なのでは!」とか思いましたけどそんなことは全然ありませんでした。三島さんが描写する美青年は少女漫画のそれではなくて、どちらかというと山川純一さんのそれですね。(あたりまえ) ライトノベルには出てこない筋肉質な男性の官能表現が新鮮でした。
自己弁護のための自己欺瞞、に見せかけた自己弁護のための自己欺瞞、に見せかけた……という入れ子構造によって本心が多重にプロテクトされちゃってるので、というかそもそも本心という確たるゼロ地点が存在するかどうか自体が疑問なので……という按配にいくらでも思考を循環させられちゃうので、もはや真のところまではトレース不可能。私小説でメタ構造を組み上げちゃった、とか印象でいい加減なことを言ってみます。愛の対象が肉と霊の次元で一致していない、というくだりの解釈はとても面白くて、三島さんの心理描写が合理的であるということを実感しました。
私はどうも読み癖が悪くて、普通に読んでると無意識に幾らかを読み流しちゃうんですけど、そんないい加減な読み方をしてるせいかお話を完全に読み取れてなかった気がします。これまで他の小説を読んでる分には特に致命的な問題なかったんですけど、ここまで濃密な文章だとやはり不具合が生じてしまうのかもしれません。反省。一単語一単語読める脳になりたいです。